久間 嘉晴 乳製品乳酸菌飲料のコーデックス規格化の現状

乳製品乳酸菌飲料のコーデックス規格化の現状

はじめに

 2010年2月1日から2月5日の間開催された第9回コーデックス乳・乳製品部会(CCMMP)において「乳製品乳酸菌飲料のコーデックス規格案(発酵乳を基にした飲料に関するコーデックス発酵乳規格(CODEX STN 243-2003)の修正案)」がステップ7で審議・承認され、最終の採択を求めて本年7月開催のコーデックス委員会(CAC)総会に送付されることになりました。長年の課題である乳製品乳酸菌飲料の国際規格化が現実のものとして視野に入ってきたため、これまでの規格化の活動経過を整理し、現状を報告します。

1. コーデックス規格の概要

 コーデックス委員会(CAC:Codex Alimentarius Commission)は、国際食品規格の制定を通じて消費者の健康を保護し、公正な食品の貿易を確保する目的で、FAO/WHO合同食品規格計画の実施機関として、1962年にFAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)が合同で設立した国際政府間組織で、加盟国は2010年2月現在で182カ国と1機関(EU)である。
 コーデックス委員会には執行委員会、10の一般問題部会、11の個別食品部会、6の地域部会および1の特別部会が設置されている(図参照)。これまでに食品規格、指針および勧告等約300件が制定されている。乳製品の規格は1994年以来ニュージーランドを議長国とする乳・乳製品部会(CCMMP:Codex Committee on Milk and Milk Products)で隔年審議されてきた。

コーデックス委員会組織図

 コーデックス食品規格の決定手順には8段階のステップがあり、規格案はコーデックス委員会総会で最終的に採択される。規格の決定手順はのとおりである。規格案は各部会でステップ4と7、委員会総会でステップ5と8の審議が行われ、規格案に問題があれば下位のステップに差し戻される。

コーデックス規格決定手順

2.乳酸菌飲料のコーデックス規格化の必要性

 乳製品乳酸菌飲料は第二次世界大戦前に日本において開発された、独特の爽やかな風味を持つ飲料である。その風味や栄養、整腸効果等が評価され、戦後急速に世界各国に広まり、現在では世界全体で「発酵乳飲料(Fermented Milk Drink)」として推定100を越すブランドが製造、貿易、販売されている(2007年国際酪農連盟(IDF)調査)。その結果、食品産業として各国の経済、貿易、健康および雇用等に大きく貢献してきた。現在では世界で毎日3,000万本以上の発酵乳飲料が愛飲されている。
 乳製品乳酸菌飲料は日本においては食品衛生法に基づく「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(昭和26年厚生省令第52号):以下乳等省令という」によって、また東南アジアやラテンアメリカ等でも法律により乳製品として位置づけられている(下表参照)。しかし欧米では未だ法的根拠は確立されていない。このため、世界的な乳製品でありながら乳製品と認められず、本来基礎食品として取り扱われるべきところを、国によっては単なる飲料としての分類・表示しか許可されなかったり、乳製品に比べて高い税を課せられたりしてきた。

世界各国の乳酸菌飲料(発酵乳飲料)の法的位置づけと成分規格

 この不利益を免れ、乳製品として世界に認知されるための最も良い解決策はコーデックス規格として認知されることであった。また、乳製品のコーデックス規格は全て欧米起源の食品であり、日本の乳製品は皆無であったことから、日本起源の乳製品乳酸菌飲料のコーデックス規格を制定することは(社)全国はっ酵乳乳酸菌飲料協会(以下協会と称する)の課題であった。

3.現在のコーデックス発酵乳規格(Codex STN 243-2003)

 コーデックス発酵乳規格は2003年に設定された。3種類のカテゴリーを含み、その概要は下記の通りである。この中には発酵乳飲料(乳製品乳酸菌飲料)は含まれていない。

■コーデックス発酵乳規格に含まれる製品カテゴリーおよび成分規格の概要

  • 1.発酵乳:適切な微生物の作用によりpHが低下する乳の発酵によって得られる乳製品。スターター・カルチャーによってヨーグルト、カルチャー代替ヨーグルト、アシドフィルスミルク、ケフィア、クミス等を含む。乳蛋白質含量2.7%以上を含む。
  • 2.濃縮発酵乳:その蛋白質が発酵の前または後に最小で5.6%までに増量されている「発酵乳」である。濃縮発酵乳にはストラギスト、ラブネー、イメール、イレットなどの伝統的な製品が含まれる。
  • 3.フレーバード発酵乳:複合乳製品であり、最大50%の非乳成分(糖類、果実、野菜、果汁、ピューレ、蜂蜜、チョコレート、木の実、コーヒー、香辛料など)および/またはフレーバーを含んでいる。非乳成分は発酵の前および/または後に混合することができる。
4.コーデックス規格設定活動の経緯

(1)コーデックス発酵乳規格の制定(発酵乳飲料の発酵乳規格適用除外)
 乳製品として発酵乳飲料のコーデックス規格を制定する上で最も適切と考えたのが当時、乳・乳製品部会で審議中であった「コーデックス発酵乳規格」の中の1カテゴリーとして発酵乳飲料を位置づけることであった。
 コーデックス発酵乳規格は1994年の第1回CCMMPから継続して審議され、2002年の第5回CCMMPにおいて最終採択のためにCACに送付されることが同意された。翌2003年、CACで最終採択され、正式にコーデックス発酵乳規格となった。
 発酵乳規格のカテゴリーの中で、乳等省令で規定する乳製品乳酸菌飲料のように発酵乳に糖、果汁、香料等を加えて製造する複合発酵乳には「フレーバード発酵乳」という名称がつけられたが、その乳成分含量をどのように規定するかということが規格設定の審議過程での最大の争点であった。
 複合発酵乳の定義については既に「コーデックス 乳用語使用に係る一般規格(Codex General Standard For the Use of Dairy Terms : Codex STN 206-1999)」第2.3項に定められている(下記参照)。

■コーデックス乳用語使用に係る一般規格

  • 2.3項 複合乳製品とは、消費される最終製品において、乳、乳製品又は乳成分が量的に不可欠な部分をなしている製品であって、乳由来ではない成分がいかなる乳成分の一部又は全部と置換することを目的にしていない製品をいう。

 フレーバード発酵乳の乳成分含量については70%以上、50%以上、30%以上等を主張する国があった。日本は前述の「コーデックス 乳用語使用に係る一般規格」の定義に基づき乳成分含量の数値規格非設定を主張した。定義では「乳、乳製品又は乳成分が量的に不可欠」と規定されていることから、フレーバード発酵乳には乳成分含量の数値規格を設定するべきではないという考えによるものである。
 CCMMPでは議論の結果、日本の主張する「数値非設定」が認められず、最小値30%と最大値70%の中間をとって、フレーバード発酵乳の乳成分量の最小含量を50%とすることが決定された。
 我が国の乳等省令による乳製品乳酸菌飲料(発酵乳飲料)の成分規格は無脂乳固形分3%以上であり、これは乳成分含量40%に相当することから、フレーバード発酵乳の乳成分の最小含量の50%以上に合致せず、発酵乳飲料はコーデックス発酵乳規格中には含まれないことになった。
 発酵乳規格に規定されている乳成分の表示方法は日本とは異なり乳蛋白質含量である。発酵乳規格に含まれている発酵乳、フレーバード発酵乳および規格から除外された発酵乳飲料の成分規格表示方法の関係は次図のとおりである。

発酵乳類の乳成分含量表示方法の関係

(2)発酵乳飲料のコーデックス規格化活動再開の根拠
 第5回CCMMPで発酵乳飲料が発酵乳規格から除外された際、「市場にある発酵乳飲料を発酵乳飲料規格のカテゴリーに加えるべき」という提案がフィリピン政府から提出され、これが数カ国の政府から支持されたため、部会は発酵乳飲料を今後の新規作業とすることを報告書に記録した(ALINORM 03/11 para.50)。これがその後発酵乳飲料規格化の活動を再開するための明確な根拠となった。

(3)コーデックス規格化設定活動の基本方針
 発酵乳飲料のコーデックス規格化活動再開の道が開けたため、協会は作業開始に際し、第5回CCMMPまでの経緯と反省を踏まえ、発酵乳飲料を国際規格化するための基本方針を下記の通り策定した。
 (1)日本政府および国内の関係団体のみでなく、広く発酵乳飲料を生産販売している国の政府や関係団体の支持を獲得し、規格設定支持の多数派を形成する。
 (2)発酵乳飲料規格設定を容易にするために、新規規格制定ではなく、既存のコーデックス発酵乳規格中の第4の製品カテゴリーとして挿入する。
 (3)発酵乳飲料の成分規格については、過去のCCMMPにおける論議で、乳成分数値規定の非設定が受け入れられなかったことから、方針を変更して乳製品乳酸菌飲料の乳等省令規格である無脂乳固形分3.0%以上に相当する「乳成分の最小含量40%」とする。

(4)IDF(国際酪農連盟)規格常設委員会におけるアクションチームの設定
 2003年、国際酪農連盟日本国内委員会(JIDF)の協力を得てCCMMPに強い影響力を持つIDFに働きかけた結果、IDFの食品規格常設委員会において発酵乳飲料規格化検討のためのAT(アクションチーム)が設定された。これによりその後の常設委員会における討議を通じてIDF主要メンバーである欧米各国に世界の発酵乳飲料の生産・販売・貿易の現状を認識させ、規格制定に対する理解を促進することができた。

(5)規格案支持国政府の支援獲得
 発酵乳飲料を生産、販売、貿易する国へはIDFやCCMMP、コーデックス地域部会会議の機会を利用しての支援依頼、また海外の製品メーカーを通じて当該政府への説明と支援依頼などを行った。その結果、アジア、ラテンアメリカ、オセアニア、アメリカ、ヨーロッパ等で多数の支持国を得ることができ、その後ステップ3及び6での規格案への各国政府コメント送付や作業部会等において多数派形成に繋がり、これが部会での規格案承認への大きな力となった。

(6)発酵乳飲料規格設定上の争点
 日本の乳等省令の乳製品乳酸菌飲料の規格である無脂乳固形分3.0%に基づく規格案である「乳成分の最小含量40%」に関し、これを支持した国もあったが、乳製品は乳成分50%以上でなければならないという考えや、現在の国内法で定めた規格よりも乳成分含量の低い製品の輸入が国内製品への圧迫要因になる等の立場から、40%に反対して最小含量を50%以上にするべきとの強力な意見があり、この乳成分の最小含量問題が終始最大の論点であった。

(7)IDFによる、世界の発酵乳飲料市場調査実施
 2006年、第7回CCMMPは、現在の発酵乳規格の適用を受けない発酵乳飲料の世界市場における実態調査をIDFに要請した。IDFではアクションチームがこの調査を担当し、世界の飲料マーケティング会社の調査資料に基づいて整理した。日本では協会が国内の会員企業に協力を求めて実態調査を実施し、JIDF経由でIDFに報告した。
 この結果に基づく2007年IDF調査報告書によれば、発酵乳規格の適用を受けていない発酵乳飲料製品のブランドが世界で100を超え、その殆どが乳蛋白質含量1.0%〜1.3%、つまり乳成分含量で40%〜50%の範囲にある一大製品群であることが判明した。これが市場の実態として明示され、発酵乳飲料規格化の大きな根拠となった。

(8)発酵乳を基にした飲料として規格案を検討
 2008年、第8回CCMMPにおいて発酵乳飲料を「発酵乳を基にした飲料(Drinks Based on Fermented Milk)」として発酵乳規格に組み入れる案が審議された。

(9)CCMMP、CACにおける審議の経過
 以上のような様々な経緯の上にCCMMPおよびCACで審議が行われ、2010年の第9回CCMMPにおいて規格案が承認され、ステップ8での最終採択を求めてCACに送付されることになった。CACで採択されれば、規格として確定し、現行の発酵乳規格に第4の製品カテゴリーとして挿入・追加されることになる。
 下記に、これまでのCCMMPおよびCACの審議結果の概要を取りまとめた。また、修正規格案(ステップ8)を資料として文末に添付した。

「発酵乳を基にした飲料」規格の審議経過

5.おわりに

 乳製品乳酸菌飲料をコーデックス規格化するための活動開始後18年、一旦発酵乳規格から除外され、再挑戦開始してからは8年が経過しました。
 CCMMPにおいては発酵乳飲料規格化は2010年に決着を付けることが既に2006年には決定されていたこと、またCACの指示による課題が全て完了したためにCCMMPが今回を持って無期休会に入ったことを併せ考えると、本年の第9回CCMMPが規格化のための最後のチャンスであり、絶妙のタイミングで規格化問題をクリアしたことになります。また、CCMMPの論議においては乳成分含量の最小値40%という規格案が圧倒的多数の支持を得て承認されたことは、わが国関係者のこれまでの長年の地道な努力の結果と考えます。
 この間一貫してこの発酵乳飲料規格化に関して温かく心強い支持をいただいた日本政府、国際酪農連盟をはじめ様々な団体、そして海外のコーデックス規格加盟国政府の皆様方にはこの紙面を借りてお礼を申し上げます。
 規格の最終採択にはCACにおけるステップ8の審議を残していますが、このまま無事最終採択され、晴れてコーデックス規格となることを心待ちにしています。

〔資料〕「発酵乳を基にした飲料」修正規格案(ステップ8)

ALINORM 10/33/11

付属文書II

発酵乳を基にした飲料に関連するコーデックス発酵乳規格(CODEX STAN 243-2003)の修正案(手順のステップ8)

新規カテゴリー2.4を規格の2に以下のように挿入する:
2.4 発酵乳を基にした飲料
発酵乳を基にした飲料とは、乳用語の使用に係わるコーデックス一般規格(CODEX STAN 206-1999)の2.3項に規定された複合乳製品であり、2.1項に規定されているように発酵乳に飲用水を混合しホエイ、非乳成分および香料のような他の成分を添加あるいは添加することなく得られる。
発酵乳を基にした飲料は、最小含量40%(m/m)の発酵乳を含むものとする。
スターターカルチャーに使用する特定の微生物以外の微生物を加えることができる
下線の文言を3.2の箇条書き部分の4番目および5番目に以下のように追加する:
3.2 許可原料
●2に定められた微生物を含む無害な微生物のスターターカルチャー;
●2.4に適用された製品における)他の適切かつ無害な微生物;
●塩化ナトリウム;
●2.3に記載された非乳成分(フレーバード発酵乳);
(2.4に適用された製品における)飲用水;
(2.4に適用された製品における)乳および乳製品
●以下の製品中へのゼラチンおよびデンプン:
・発酵後に加熱処理した発酵乳;
・フレーバード発酵乳、
発酵乳を基にした飲料;そして
・プレーン発酵乳(最終消費者への販売に関してその国の国内法で許可されている場合);
4.に記載された安定剤/増粘剤の使用を考慮して、適正製造基準に従って機能的に必要な量だけが添加されることを条件とする。これらの原料は、非乳成分の添加前または添加後のいずれにおいて加えてもよい。
下線の文言を3.3の第1段落に以下のように追加する:
3.3 組成
フレーバード発酵乳および発酵乳を基にした飲料では、前述の基準は発酵乳部分に対して適用される。微生物学的基準(発酵乳製品の割合に基づく)は、賞味期限の日付までは有効である。この条件は、発酵後に加熱処理された製品には適用されない。
下線の文言を4の2段落に以下のように追加する:
4 食品添加物
食品添加物に関する一般規格(CODEX STAN 192-1985)前文の4.1に従って、非乳原料成分由来のキャリーオーバーの結果として、フレーバード発酵乳および発酵乳を基にした飲料中には他の添加物が存在していても差し支えないものとする。
添加物種類 発酵乳および
発酵乳を基にした飲料
発酵後熱加熱処理発酵乳および
発酵後加熱処理された発酵乳を基にした飲料
プレーン フレーバード プレーン フレーバード
酸度調整剤 - X X X
炭酸化剤 X2 X2 X2 X2
着色料 - X - X
乳化剤 - X - X
香味増進剤 - X - X
梱包ガス - X X X
保存料 - - - X
安定剤 X1 X X X
甘味料 - X - X
増粘剤 X1 X X X

X = この添加物種類に属する添加物の使用は技術的な正当性がある。フレーバード製品の場合は、乳部分の添加物に技術的な正当性がある。

- = この添加物種類に属する添加物の使用には技術的な正当性がない。

1 = 加水還元及び組替え還元の場合、また最終消費者への販売国の国内法規で許可されている場合に使用が限定される。

2 = 炭酸化剤の使用は、発酵乳を基にした飲料のみにおいて技術的な正当性がある。

(下記の食品添加物条項は、規格によって適用されている製品に許可されている個々の食品添加物リストに加えなければならない-ALINORM 08/31/11のAppendix VI参照)
炭酸化剤  
290 二酸化炭素 GMP
7.1.1に追加する下線の文言は以下のように修正する:
7.1 食品の名称
7.1.1 文言は下記のように修正する。
7.1.1 2.1,2.2,そして2.3で適用された製品の名称は、どちらに該当するかによって発酵乳または濃縮発酵乳とする。
7.1.3の後に下記のように新しい段落を挿入し、次の段落の番号をこれにより変更する。
7.1.4 2.4に規定されている製品の名称は、発酵乳を基にした飲料または当該製品が販売される国の法規によって規定されている他の様々な名称とする。とりわけ、原材料として発酵乳に添加した水は原材料リストに記載するものとし、使用した発酵乳%(m/m)をラベルに明示するものとする。香料が添加された場合には、主要な香料物質、または香料が添加されている旨を表示すること。
※包装食品の表示に関する一般規格4.2.1.5に規定のとおりとする(脚注)
下線の文言を下記のように7.1.5に付け加える:
7.1.5 栄養炭水化物甘味料のみ添加した発酵乳は、「加糖○○」と表示してよく、○○の部分はセクション7.1.1と7.1.4に従って「発酵乳」または他の名称と置き換える。砂糖の一部または全部の代用として非栄養性甘味料を添加した場合は、製品の名称の近くに「〜で甘味をつけた」または「砂糖と○○で甘味をつけた」と記載し、○○の部分に人工甘味料の名称を入れるべきである。


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