成人向け栄養指導(スポーツ選手)

スポーツ栄養マネジメントと
乳製品摂取の意義

鈴木 志保子 神奈川県立保健福祉大学 保健福祉学部 栄養学科
教授 鈴木 志保子

2008年の北京オリンピックで見事金メダルを獲得したソフトボール女子日本代表チーム。決勝で戦ったアメリカ代表と比べ体格的に決して恵まれているとは言えない日本代表が勝ち残ったその陰には、管理栄養士やフィジカルトレーナーなど、多くのスタッフの協力がありました。日本代表チームに合宿時から同行し、栄養教育や栄養補給の方法を指導した神奈川県立保健福祉大学の鈴木志保子先生に、そのマネジメントの考え方や方法、乳製品の摂取意義などをうかがいました。


スポーツ栄養マネジメントとは


■まず、スポーツ栄養マネジメントとはどのようなものなのかをお教えください。
 スポーツ選手に対する栄養管理を説明する際、「スポーツ栄養学」とか「スポーツ栄養マネジメント」、あるいは「栄養サポート」といった言葉が使われますが、それぞれ定義づけされています。まずスポーツ栄養学ですが、これは「運動やスポーツによって身体活動量が多い人に対して必要な栄養学的理論・知識・スキルを体系化したもの」ということになります。スポーツ栄養マネジメントは、「運動やスポーツによって身体活動量が多い人に対して、スポーツ栄養学を活用して、栄養補給や食生活などの食に関わる全てについてマネジメントすること」、そして栄養サポートは、「特に選手に対してスポーツ栄養マネジメントを実践すること」です。今日は運動選手を対象としたスポーツ栄養マネジメント、つまり栄養サポートを中心にお話ししたいと思います。

■わかりました。ところで、栄養サポートはどのような形で進めるのでしょうか。
 チームや団体に対して行うマネジメントと、選手個人に対して行うサポートは少々質が違うので、それをわかりやすい形に体系化してみました()。まず、マネジメントの目的があります。これは、例えばオリンピックで優勝するための食事管理といった目的だったり、あるいは暑さに負けない体をつくるための食事管理であったり、チームや団体ごとに異なります。次のスクリーニングでは、希望者、あるいはチームなどの全員を対象として抽出します。そしてマネジメントする上で決定した臨床検査や身体測定、食事調査などのアセスメントを個々に対して実施し、サポート計画を立てて実際にサポートしていきます。個人へのサポートの結果は、アセスメントと同様の項目についてモニタリングし、個人評価をするという流れです。目的を達成すれば個人サポートは終了しますし、アセスメント自体を見直した方がよければ再びアセスメントに戻ったり、サポート計画の見直しが必要ならサポート計画まで戻って、再びこの流れを続けるということになります。さらにスクリーニングされた対象者全員の結果、実施や目標の達成の状況などからマネジメントの評価をします。


[図]スポーツ栄養マネジメントの流れ


■北京五輪のソフトボール女子日本代表チームも、この流れでマネジメントされたのですね。
 基本的にはそうです。まず1年目のマネジメントの目的となったのは「食生活を自己管理するための能力と実践力を身につける」でした。スクリーニングは強化選手30人全員、そしてアセスメントとモニタリングは国立スポーツ科学センター(JISS)で行っている評価法を用いました。しかし基本的に自己管理は選手が引退するまで続くものですから、2年目はこの自己管理という目的を残したまま「北京オリンピックに勝つための食事管理」を追加し、2つ目の目的としました。その中で、個々に合わせて「夏バテしない」とか「痩せない」といった具体的な目標を立ててサポートしていったわけです。

食事量と栄養バランスの整え方

■サポートは、どのような形で実施するのでしょうか。
 サポート計画としては、「栄養補給」「栄養教育」「スタッフとの連携」を柱にして計画を立てていきます。スポーツ栄養というと、今まではレクチャーだけ、あるいは現場主義的にサプリメントの摂取といったイメージでとらえられるところがありましたが、それでは不十分です。教育した内容を実践できているか、実際に私たちが選手と一緒にビュッフェなどに行き、料理や食品をどれだけ摂ったらいいのかなどを現場で指導しなければ、なかなか身に付くものではありません。

■栄養教育は、基礎的なことから指導していくのですか。
 栄養素や食品の基本的な話からスタートします。通常の「スポーツ栄養」ではいきなりたんぱく質の話から始まったりするのですが、私の場合はそうではなく、たんぱく質が体に吸収されるまでにはアミノ酸に分解されるという話から始めます。そうしないと、「プロテインを飲んでいます、ペプチドも飲んでいます、アミノ酸も飲んでいます」ということにもなりかねないのです。マネジメントを行うのであれば、栄養素の話も、消化と吸収の話も、エネルギー代謝の話も、食品の話も、衛生管理の話も、全て必要です。ソフトボール女子日本代表チームの場合は実際にこれら全てを教育しました。当時は私が執筆したテキストがまだなかったので、看護師向けの栄養学の教科書をもとに、病気の項目以外は全て行いました。ですから、選手たちは肝臓の機能も知っていますし、たくさん食べ過ぎたりすれば胃腸や肝臓が疲れることも知っています。そうすると、自分の身体の状況がわかります。最近疲れが取れないのは肝臓を使いすぎているからではないかとか、内臓を見る目を持つことができるのです。

■食べる量などは、個人個人で違ってくると思うのですが、どのような指導を行っているのですか。
 毎日体重と体脂肪を測定し、それを目安に考えてもらいます。自分がどれくらい食べればよいかは、経験で身につけるしかないのです。このような環境でこの程度運動し、これだけ食べるとどうなるかということを、毎日の測定結果をもとに判断しながら、自分の体のルールを自覚していくことが大切だと思いますね。そして活動量が多かったり少なかったりしたときは、ご飯の量で微調整していきます。ただし、主食の量が必要量以下になることだけは避けるように伝えます。主食である糖質はエネルギーの元ですし、脂肪は糖がなければ燃焼しません。運動選手に最も大切な栄養素を敢えて一つ挙げるとすれば何かと聞かれたとき、私は糖質だと答えます。糖がなければ脳のエネルギーが不足するし、運動するときに脂肪も使えないのです。だからまず糖の摂取を最初に考えなければならないと言っています。

■栄養バランスの面では、どのようなことが大切ですか。
 自分にとって最適な量を食べることと、バランスよく食べること(質)の両方が実践できて100点満点としたら、1日3食で平均80点を狙ってほしいと選手たちには話しています。例えば朝食と夕食が両方とも100点だとしたら、昼食は40点以下にはできませんね。40点以下の食事とは、おにぎりだけとか、ゼリーだけといったものです。手を抜くと言っても最低限どこまで抜いていいのか、体を資本としている選手はしっかり考えなければならないと思います。
 取り揃えたい食品としては、主食と主菜が各1品に副菜が2品、それに乳製品と果物を必ず付けるというのが1回の食事のイメージです。食事バランスガイドと異なるのは、副菜が2品という点です。また、食事バランスガイドでは豆腐や納豆が主菜に含まれますが、運動選手の場合は大豆製品まで主菜としてカウントするとたんぱく質摂取量が減ってしまうので、副菜の方に入れるようにしています。一人暮らしの人に対しては、レトルトのカレーを食べるときなら、野菜や肉をレンジで温めて加えるくらいの気は遣おうと話しています。さらにサラダを加えて乳製品と果物を入れれば100点に近くなります。このようなちょっとしたことができるかどうかが、自分の体を守れるかどうかに関わってくるのだということを、繰り返し伝えています。

ヨーグルトは必ず毎日1回は食べたい食品

■乳製品は必ず毎食摂取するよう指導しているのですね。
 そうです。牛乳だったら1回200ml、ヨーグルトだったら150ml程度は皆、食べていると思います。乳製品といっても、牛乳ばかり飲むより、ヨーグルトやチーズなどいろいろな形で摂った方がいいと伝えています。これはスポーツ栄養の指導者の間では常識で、中でもヨーグルトは必ず毎日1回は摂りたい食品ですね。
 また、中学生や高校生に食事指導をするとき、「乳製品の摂取が少ないからもう少し増やそう」とか「牛乳ばかり飲まないでヨーグルトも取り入れたらどうか」といったアドバイスをすると、ほぼ確実に習慣化できます。なぜかというと、乳製品は店頭で買って冷蔵庫に入れておけばいいので、親御さんの手をわずらわせる必要がほとんどないからです。ですから乳製品は習慣化しやすい食品です。

■ヨーグルトの場合、あまり甘くないものや脂肪が少ないものを選んだ方がいいのでしょうか。
 競技やその選手の体によります。プレーンタイプに蜂蜜だけ加えて食べた方がいい場合もあれば、甘いジャムが入ったものでも大丈夫な場合もあります。また、大人の選手に対しては、乳酸菌にはいろいろな機能を持ったものもあり、研究報告も出されているので、それを参考に自分の体に合ったものを選ぶよう助言したりもします。実際に選手には花粉症の人が多いので、そのシーズンに薬で症状を抑えるだけではなく、1年を通して体作りを考えて活用してみてはどうかと勧めることもあります。また海外遠征ではいつもの食事を食べることができなくなるために、排便の不調を訴える人が増えます。そんなときは乳酸菌を積極的に摂取するのはいいことだと思いますね。実際に選手たちも、ヨーグルトとオレンジジュースを混ぜて美味しく飲む工夫をよくしています。また、プロテインをヨーグルトで溶かして食べるなど、いろいろな活用をしています。
 ここ一番でベストのパフォーマンスができるかどうかは、毎日の積み重ねがものを言います。そのためには、自分の体を守るためのルールを自分でつくることが大切ですし、美味しく、かつベストコンディションを維持できるように食べることができる環境を常に自分で考えて実行することが不可欠です。選手のためにそれをサポートすることが私の使命だと思っています。


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