成人向け栄養指導(スポーツ選手)

スポーツ栄養と乳製品の摂取意義

長坂 聡子 日本女子体育大学大学院 研究生
管理栄養士/健康運動指導士 長坂 聡子

ケガや故障を防ぎ、高いパフォーマンスを発揮するためには、アスリートにも適切な栄養知識が求められます。特に若年世代のスポーツ選手では、身体の成長とのバランスも考えなければなりません。日本女子体育大学大学院に所属してジュニア選手などへの栄養指導を行い、日本陸上競技連盟の食育プロジェクトにも関わる長坂聡子さんに、スポーツ栄養の基本や乳製品の摂取意義などをお聞きしました。


主食、主菜、副菜2品、牛乳・乳製品、果物を揃えることが基本


■アスリートの栄養に対する認識など、現状をお聞かせください。
 オリンピックに出るようなトップ選手は、管理栄養士やトレーナーに食事指導を受けている方が多いので、栄養に関する知識は比較的高いと思います。合宿時は食事がバイキング形式であることが多いのですが、その中で自分に必要な食事を選択できる選手が多いようです。しかし、トップ選手を目指しているような大学生や高校生の選手などは、欠食している選手や、○○ダイエットなどを行っている選手などもいて、あまりよい食事環境にあるとは言えないのが実態です。
 さらにジュニアの選手となると、食事を作る保護者の方の食意識が大きく関わってきます。以前定期的にスポーツ活動を行う小学生の食事調査をしたのですが、私たちが指導する必要がないほど完ぺきな食事をしているご家庭もあれば、パンと牛乳だけだったり、お昼も麺だけ1品のみというような食事をしているご家庭もありました。ジュニア期は成長期であるため、スポーツをするしないに関わらず、バランスよくしっかりと食べることが大切です。また、このころに習得した食習慣は中学生、高校生になってからも影響することがわかっています。そのため、ジュニア期からの栄養教育が重要になります。

■どのような競技でも、栄養指導のベースとなる考え方は同じなのですか。
 基本的にはそうです。さらに、持久系なら糖質(ご飯、パン、麺類など)をしっかり食べるとか、筋力が必要ならたんぱく質(肉類、魚類、大豆製品、卵など)を十分にとるなど、競技特性によって基本形にプラスして指導するという形です。女子新体操など、ウェイトコントロールが必要な競技の選手の中には、食品のエネルギーではなく、手で持った感覚で軽い食品を選ぶ人もいます。例えばおにぎりよりポテトチップスのほうが軽いからそちらを選ぶというものですね。このような誤りを正すためにも、基本的なことから指導していく必要があります。
 どの競技においても最も基本となるのは、欠食をしないことや、バランスよく食べるということです。また、競技特性や身体づくりの目的に合わせ、食材の選び方や調理方法を考えていきます。例えば減量を考える場合、やみくもに食べる量を減らすとバランスがくずれることがあるので、豚肉料理を食べるときは、同じ豚肉でもバラ肉より赤身の多いもも肉の方が脂質が少ないからエネルギーが低い、といった知識を伝えたり、調理法なら油で炒めたり揚げたりするよりも、蒸したり茹でたりする方がエネルギーをおさえることができる、といった指導もします。

■バランスのよい食事は、一般人と同様なのでしょうか。
 一般の方には「食事バランスガイド」があります。この食事バランスガイドでは主食、主菜、副菜を1日の合計が目標とする分量(sv)になるように毎食とり、牛乳・乳製品を牛乳なら1日にコップ1杯程度(200ml)、果物は1〜2個程度が基本となっています。スポーツ選手にとってはもう少し多くとるべき食品もありますので、それを考慮して指導します。スポーツ選手の場合、主食、主菜、副菜を2品、そして牛乳・乳製品と果物の6品を朝昼夕揃えて食べることが基本になります。スポーツ選手は牛乳・乳製品、果物も毎食とるというところが一般の方とは異なります。
  「この6品をそろえて食べましょう!」といっても実際主食や主菜、副菜が何を意味するのかわからないという選手も多いので、指導の際、料理のイラストを使って説明したりして覚えてもらっています。また、主食や主菜などの皿を置けるランチョンマット(図)を実際に使ってもらったりもします。中高生の場合は料理カードを使い、どのような料理を選んだらバランスがよくなるか、自分が選んだ食事では何が足りないかなどを知ってもらうような指導もします。



(図)ランチョンマット


■スポーツ栄養といっても、基本的なところは一般の人向けのものとあまり変わらないのですね。
 スポーツ栄養というと何か特別な食事なのではないかと考えている人も多いようですが、そうではありません。スポーツ選手にとっての食事とは、競技力を向上させるためにとるものではなく、身体作りやコンディショニングを整えるためにとるものです。そう考えると一般の方と同じような考え方ですよね。

牛乳・乳製品と果物は毎食とる

■スポーツ選手の場合、乳製品や果物は毎食摂るわけですね。
 そうです。スポーツ選手はカルシウムの必要量が一般の人より多いのです。骨密度が高いほうがケガや故障が起こりにくいので、骨の材料となるカルシウムをしっかり補給するために牛乳や乳製品を毎食とることを勧めています。牛乳や乳製品のカルシウムは吸収率が良い点でも、また気軽に摂れるという点でも理想的です。ヨーグルトなどは練習の前後に食べる補食としてもとりやすい食品ですね。女子の場合、どうしてもチョコレートやスナック菓子を間食として食べる傾向にあるので、その代わりに乳製品を摂れば無駄なエネルギーをとらずに必要な栄養素が補給できるという意味でも、間食や補食として乳製品や果物を勧めています。ヨーグルトはお菓子感覚で食べられるので、取り入れやすい食品です。

■子どもたちに、乳製品を摂ると太るという誤解はありませんか。
 最近は小学生くらいから痩せ志向がみられ、女子だけでなく男子にも痩せたいと思っている子がいます。中学生以降になるとさらにその傾向は強くなり、そのような子どもは乳製品に限らず、全体的な摂取量を減らしてしまいがちです。しかし、小中学生の時期は体格が大きくなる時期なので、しっかりと食事をとること、また給食で牛乳を飲んでいるから大丈夫、と安心するのではなく、家でも牛乳・乳製品をしっかりと摂取し、適切な成長を促すよう指導しています。

■果物では、アスリートにはどのようなものが勧められるのですか。
 ビタミンCを多くとるために、柑橘類やイチゴ、キウイ、カキなどの摂取を勧めています。果物を摂るのが難しいという選手には、グレープフルーツやオレンジなど、柑橘系の100%ジュースでもビタミンCを多く摂取することができることを説明しています。
 ビタミンCはコンディションを良好に保つために必要なビタミンです。またストレスの緩和にも役立ちます。さらに、腱や靭帯などの結合組織といわれるものを構成しているコラーゲンというたんぱく質の合成にも欠かせないビタミンです。ビタミンCは水溶性なので、一度にたくさんとっても排出されてしまい、体内に溜めておくこともできません。そこで、1回にたくさんとるのではなく、1日3回の食事や補食として食事の合間にとることを勧めています。ビタミンCは果物だけでなく、緑黄色野菜にも多く含まれています。

■サプリメントなどの摂取は勧められませんか。
 サプリメントとは、食事で補いきれなかった栄養素を補うものと定義されています。そのため、サプリメントの摂取を考える前に、まず自分の食事を見直し、食事を改善することが基本です。
 最近では様々な種類のサプリメントが市販されており、明確な目的やしっかりした知識をもたずに、「なんとなく」や、「周りの選手がとっているから」というような理由でサプリメントを摂取している選手も少なくありません。また、ジュニア用のサプリメントもあり、保護者の方から「とらせた方がいいですか?」と聞かれることもあります。
 そこで栄養指導では、実際に献立を見せて「このようにバランスのよい食事をすれば栄養素がこれだけとれて、サプリメントに頼る必要はない」という話なども選手や保護者にします。栄養素の中には過剰にとりすぎると健康を害するというものもあります。また身体作りのためによく使用されているプロテインについては、多くとればとっただけ筋肉になるわけではなく、身体の中で筋肉として合成される量は決まっており、それ以上に摂取すると体脂肪として蓄積されてしまう、というような知識もジュニアの世代から指導することが不可欠です。
 また、トップ選手になるとドーピング検査があります。近年インターネットなどで国内だけでなく海外で市販されているサプリメントなどを容易に購入することができます。そのため、なぜそのサプリメントが必要なのか、そのサプリメントは安全なのかをしっかりと考慮する必要があり、自己管理が重要であることを指導しています。

地域のスポーツ活動をサポートする「認定スポーツ栄養士」が誕生

■最後に、スポーツ栄養の今後の展望についてお聞かせください。
 本学の田口素子准教授が会長をしているNPO法人日本スポーツ栄養研究会では、(社)日本栄養士会、(財)日本体育協会と連携して、公認スポーツ栄養士の養成が進められています。スポーツ栄養士とは、地域でのスポーツ活動現場や都道府県レベルでの競技者の育成において、栄養・食事に関する専門的なサポートを行う専門家のことで、平成20年度からその認定制度がスタートしました。(財)日本体育協会が開催する共通講習会や(社)日本栄養士会から委託を受けたNPO法人日本スポーツ栄養研究会が実施するスポーツ栄養専門講習会を受け、試験に合格するとスポーツ栄養士として認定されます。ちょうど今年、最初のスポーツ栄養士が誕生する見込みです。

■そのスポーツ栄養士が中心となって、地域の活動を進めていくということですね。
スポーツ栄養士はスポーツ栄養に関する高い専門性を有したスポーツに携わる専門家です。スポーツ選手やその指導者の方もスポーツをやる上で食事が大切であることを認識しています。さまざまな種目や地域でスポーツ栄養士が活躍していける場が増えるといいなと思います。
 また、現在「食育」という言葉がいろいろなところで聞かれています。若い世代だけでなく、どの世代に対しても食育は大切だと感じています。子どもたちが小さいうちから栄養に関して正しい知識を持つためには、家庭の中でしっかりと教育がされなければなりません。そのためにも、実際にスポーツをしていない保護者の方や指導者の方などへの栄養指導も積極的に展開していきたいと思います。

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