アテネ五輪で大活躍の
日本女子柔道を支えた栄養サポート

奈良 典子 明治製菓株式会社
ザバス スポーツ&ニュートリション・ラボ
管理栄養士 奈良 典子

1993年3月から(財)全日本柔道連盟に協力して女子柔道をメインに栄養サポートをされている奈良典子さんは、アトランタ、シドニー、アテネのオリンピックを始めとする海外遠征でも選手の栄養・食事管理に携わってこられました。アテネでは、全日本女子柔道チームは金メダル5つと銀メダル1つを獲得。その活躍を陰で支えられた奈良さんに、全日本女子柔道の栄養サポートについてお話していただきました。

国内の指導では、選手が一人で栄養管理できることを目指す

■女子柔道の栄養サポートは、どのように行われているのでしょうか。
●柔道・オリンピックの代表選手を含めた強化選手は、日頃は各所属のチームで過ごし、強化合宿期間や遠征の際に集まります。強化合宿は男女別にて行われるため栄養サポートは男女別に実施し、国際大会などの遠征の際は男女一緒にサポートするという形式をとっています。
  実際の活動は、国内でのサポートと海外でのサポートに分けられます。国内でのサポートは選手に対する栄養教育がメインです。海外遠征のときも一人で自分の栄養管理や体調管理ができることが望まれるので、そのための栄養教育が中心になります。具体的には、まず導入時の栄養セミナーによって栄養・食事に対する興味を持ってもらうことから始まります。それと同時に、栄養についての問診や食事調査などを行って選手の現状を見ます。選手に対して個々の現状をデータとして見せ、「あなたはこのような状態だから、こういう体調なんだ」ということを示していきます。
  なおかつ血液検査なども実際に行い、そのデータと照らし合わせながら栄養のカウンセリングを行っていきます。それにより選手の悩みや問題点などを拾い出し、徐々に改善に持っていくという流れです。

■選手の悩みとしては、どのようなものが多いでしょうか。
●柔道の場合は階級制ですから、やはり減量あるいは増量ということが悩みとして挙げられます。また日頃の体調管理など各人によって違いますので、その状況に応じていろいろな提案をしていきます。
  栄養カウンセリングを行うのは合宿期間中ですが、そこでは実際に栄養バランスが整っていて美味しく楽しめるメニューを提供します。私は「栄養フルコース型」と言っているのですが、@ご飯やパンなどの主食、A肉や魚、豆腐などのおかず、B野菜のおかず、C果物、D牛乳・乳製品を揃えることで、なるべく選手として望ましい栄養バランスになるような食事のスタイルを覚えてもらいます。そのためにビュッフェ形式で食事を準備し、サンプルメニューを提示して理解してもらうよう努めています。また、一緒に食事をしながら、好き嫌いも含めて各選手の食状況などを見て、悩みなどを聞きだしたりもします。

個々の選手の体重管理に合わせた栄養補給法を指導

■ハードなトレーニングゆえの栄養的な問題はあるのですか。
●選手のスタミナが練習終了時まで続いているか、あるいは途中でバテていないか、水分補給の状態は良いかなどを見ながら、問題のありそうな選手に対してアドバイスをします。代表選手の練習は朝6時半頃からの朝錬で始まり、午前と午後を含めて1日5〜6時間程度の練習を行います。しかも「本立ち」といって5分間の稽古を12本連続で休みなく行うので、脱水状態で倒れてしまう可能性もあります。そのため練習中は当然ですが、練習前の水分補給を促します。
  また、エネルギーの補給も大切です。練習が3時間にも及ぶとエネルギー消費が高まり、体重が一気に減っていきます。増量しなければいけない選手にとっては一大事ですから、いかに練習中の体重減少を防ぐかは大きな課題です。しかも練習時間が長くなると筋分解が進み、筋肉のタンパク質がエネルギーとして使われ、バテやすくなります。練習を長時間継続するためには、できるだけ筋分解を防ぐようにエネルギーを外から補うことが大切になります。

■具体的には、どのような方法をとられるのでしょうか。
●水分と一緒にエネルギー補給できるエネルギードリンクを選手に摂取してもらうようにしています。当社の「グリコーゲンリキッド」という商品は胃もたれもなく選手からも好評なので、このドリンクを中心にエネルギーを補給してもらいます。時には1回の練習だけで800kcalくらい摂ることもありますが、それによって筋分解を抑えて最後まで集中して練習ができるわけです。また、筋分解を抑えることで余分なエネルギー消費を防げるために、食べる力も残ります。そうすると食事でもしっかりとエネルギーとタンパク質の補給ができるので、選手の体重減少を防ぐことができるわけです。

■逆に減量しようとしている選手にはどのような指導をされてるのですか。
●長い練習時には集中力が途切れないように練習前にエネルギードリンクを飲んだ方が良いケースもあります。しかし中には、かなりエネルギーをセーブしながら減量する選手もいます。そんな時には、エネルギーを抑えたドリンクでの水分補給を行うように提案します。理由は、水分が不足すると痙攣などを起こしてパフォーマンス低下を招くからです。水分補給の方法ひとつを例にとっても、状況に応じたサポートが求められます。

■血液検査の結果も参考にされるとのことですが、これはどのようなことですか。
●体調管理の一環として行っています。運動量が多い柔道選手は一般の人以上にちょっとした疲労でも敏感になるので、その意味でも身体の状態を数値化したデータで示すことは有効だと思います。特にビタミンB群などはエネルギー代謝に関わるため必要不可欠な栄養素の一つです。しかし、食事調査結果で仮に選手がビタミン不足だったとしても、主観的な疲労症状がないと栄養(食事)改善を促す上では説得力に欠けるケースもありました。
  そんな時、私は98年から2年間、国立健康・栄養研究所の研修生として、男女柔道・オリンピック選手の血中ビタミン濃度の定量測定を行う機会に恵まれました。そこで、体内の血中ビタミンの栄養状態を数値として示した結果、選手自身が栄養改善に意欲的に取り組む傾向が認められました。

海外の遠征先では、栄養バランスだけでなく楽しんで食べることに重点を置く

■遠征での栄養管理についてお教えください。
●海外に遠征するとある程度の調整期間がありまして、オリンピックの場合は長い選手で2週間、短い選手で1週間くらいになります。この試合調整期で大切なことは、免疫力が落ちないようにすること、下痢を起こさないようにすること、そして体重管理をしっかり行うことです。
  選手はハードなトレーニングを積んできていますし、試合を控えてストレスが高まっていますから、免疫力がかなり低下してカゼなどをひきやすくなっています。そのためカゼ予防と体重調整にポイントをおいて、栄養バランスを考えていきます。具体的にはタンパク質やビタミン、ミネラルをしっかり摂る。なおかつ適正エネルギーを摂取して体重を維持しながら調整していきます。
  実際に食事をつくる際は、栄養バランスを考えつつ美味しく楽しんで食べてもらえるように配慮します。楽しんで食べることで栄養吸収もよくなりますし、何より選手がリラックスできると考えたからです。そこで、配慮の一例としては、デザートを含めてできる限り選手のリクエストに応えたメニューを作るように心がけます。ただ、ワガママを聞き入れながらも「栄養フルコース型」の食事スタイルの基本は崩さないように、それぞれ2〜3種類を必ず揃えるようにします。乳製品も、普通牛乳、低脂肪牛乳、ヨーグルトなどを用意して、選手が好きなものを自由に組み合わせられるようにしています。
  ただ、現地で我々にできるのはバランスの良い食事を提供するのが限界です。それ以外をカバーしてくださっているのが、監督やコーチをはじめとする大勢のスタッフや選手自身・・・。全員が居心地の良い食環境を作ってくださるから食事を楽しんでもらえるのだと感謝しています。

■下痢を起こさないためには、どのような注意が必要ですか。
●選手は心身ともにストレスがかかっており胃腸が敏感になっているので、ちょっとしたことで下痢を起こしますが、少なくとも細菌性の下痢だけは防ぐように非常に気をつかいます。生野菜を食べるときも、食材を水道水で洗った後に、さらにミネラルウォーターで洗う配慮も時には行います。

■試合当日の食事についてはいかがでしょうか。
●オリンピックなどではチェックが厳しくて私たちは選手控え室に入ることはできません。そこで、選手が必要なものを我々が準備して選手のもとへ届けてもらいます。試合当日は朝7時くらいに計量が行われますから、計量が終わった段階ですぐに選手が食事を摂れるようにします。選手が試合前に食べたいものを事前に聞き取り、栄養学的視点から調整しますが、特に必要な栄養素としてはエネルギー源になる炭水化物とビタミンが主体になります。さらに胃腸に負担の少ない消化の速い食品、食物繊維を控えた食品を主に揃えます。
  試合当日、選手は非常に緊張していますが、多めに食事をつくります。というのは、選手だけでなくコーチや付き人も一緒に食べてもらうことで選手にリラックスしてもらいたいからです。

選手自身もいろいろな工夫して楽しみながらヨーグルトを摂取

■柔道選手にとって、はっ酵乳の摂取はどのような意義を持っていますか。
●ヨーグルトは腸内の働きを活性化してコンディションを整えますし、疲れているときでも手軽に摂れる上、カルシウムも豊富な食品ですから、私たちも選手に勧めます。実際に選手たちもいろいろな工夫をしてヨーグルトを摂っているようです。例えば飲むヨーグルトにオレンジジュースを混ぜてオーレにしたり・・・。身体にもよくて美味しいということで楽しんでいます。減量中の選手ですと、普通のアイスクリームを食べると摂取エネルギーが高くなってしまうので「低糖タイプのヨーグルトを冷凍して食べたら」と提案することもあります。ほどよくエネルギー調整ができる上、カルシウムも摂取できるので優良食品だと思います。
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