3.子ども、青少年のための栄養教育

乳幼児の「食」に求められるもの

 
堤 ちはる 日本子ども家庭総合研究所 母子保健研究部
栄養担当部長 堤 ちはる

生後5〜6か月頃から始まり、12〜18か月くらいで完了する離乳期。この時期の「食」は、からだの成長だけでなく、心の発育や親子の関係づくりにも大切な意味を持ちます。平成19年3月、厚生労働省は「授乳・離乳の支援ガイド」を公表し、保健医療従事者向けに、授乳・離乳の適切な支援の目安を示しました。その策定に関わる研究会のメンバーでもあった、日本子ども家庭総合研究所 母子保健研究部栄養担当部長の堤ちはる先生に、乳幼児の食事にどのような配慮が求められるのかなどをお聞きしました。


嫌いな食べ物を受容することが自信や達成感につながっていく


■赤ちゃんの “食”に関する不安や悩みを抱えている家庭は多いようですね。
 乳幼児をもつお母さん方の中には、「この月齢ならこの分量」など、数字にとらわれすぎる傾向のある方がみられます。100人子どもがいれば、100通りの育て方があるように、食についても、厚生労働省が平成19年に公表した「授乳・離乳の支援ガイド」といった目安はありますが、それが全てではありません。例えば子どもが7か月くらいになったら、魚なら1回10gくらいが摂取の目安になります。それを「うちの子は5gしか食べない」などと心配する必要はないのです。大人でも運動量や体格で食事量は違うのですから、子どもも一人ひとり違って当たり前です。また同じ子どもでも、日によって気分や体調は変化します。母子健康手帳などに載っている成長曲線のカーブに沿って発育していれば問題ないことがほとんどですから、結論を急がず柔軟に考えることが大切であると思います。

■偏食を心配される親御さんもいるのではありませんか。
 小さい頃の偏食は固定されたものではありませんから、一回食べなかったり拒絶されたからといって偏食と決めつけないようにしたいものです。少し日をおいてあげたり、調理法を変えたりすると食べることもあります。
最近のお母さん方はとても勉強していて、例えばピーマンを食べなくても、同じような栄養素を含むものであれば他の食材で構わないと考えている方もいます。行動が制限されがちな高齢者などで「食事が唯一の楽しみ」という場合はそれでもよいと思いますが、子どもの場合は様々な食材を口にして、食嗜好を広げることが大切ですね。調理に工夫したり励ましたりして、少しでも食べられたら褒めてあげることが大切です。嫌いなものが食べられたら自信が生まれますし、達成感も得られます。それが、物事に前向きに取り組む姿勢にもつながるのではないでしょうか。人間関係にしても、社会に出れば「嫌いだからつきあわない」わけにはいきませんし、困難な仕事を拒否できない状況はいくらでもあります。いろいろなものを食べることは、人や物事を受容する生活の様々な場面まで広がることを考え、子どもの言いなりにならず、「食」のあるべき姿について考えていただきたいと思います。
人間は雑食性の動物なので、初めて食べたり飲んだりするものに対してはまず恐怖心を持って、警戒する行動様式が備わっています。これを新奇性恐怖といいますが、子どもの“食わず嫌い”も、この新奇性恐怖からおこることがあります。そのときに、一緒に食卓を囲む人が美味しそうに食べると恐怖心が薄らぎます。逆に、周りの人が不安げな表情でスプーンを恐る恐る差し出せば、子どもも心配になってしまいます。このような食わず嫌いを防ぐには、楽しい雰囲気で食卓を囲むことが大切です。

嫌いな食品が食べられるようになる工夫を
“手づかみ食べ”は、食物に対する興味が出てきたことを意味する

■その他に、お母さん方は、どのようなことで子どもの食事で頭を悩まされるのでしょうか。
 “遊び食い”で困っている人は多いですね。ただし、遊び食いには“手づかみ食べ”が含まれていることも考えられます。しかし、離乳期にはこの手づかみ食べを十分にさせたいのです。なぜなら、手づかみ食べは、自分で食べる意欲を育てることにつながるからです。手でつかんで食べようというのは、食べ物に興味が出てきたということに他なりません。それはまさしく“食育”の第一歩であると思います。この時期に食べ物に興味を持たせ、食べることが楽しい、食事の時間が待ち遠しい、そのような子どもに育てておけば、ある時期が来れば食に関する知識や技術を自ずと求めていくようになるでしょう。
また、手づかみ食べは、目や手、口の協調動作の発達に関係しています。つまり、食べ物の色や硬さや温度などを手づかみ食べで何度も体験して覚えていくわけです。目や手、口の連携がうまくできるようになると、一口で噛み取る適量もわかるようになりますし、スプーンやフォークなどの食具も徐々に使えるようになってきます。

■しかし、いつまでもダラダラ遊ばれては困りますね。
 食事開始後20〜30分程度で食べずに遊び始めたら、「もう、ごちそうさまにしますよ」と言って片付けます。このとき、子どもがあまり食べていなくても、次の食事の前におやつなどを与えてはいけません。子どもは食事時間に遊んでいて、食べなくても、おやつが出てくると学習してしまいます。次の食事まで何も食べられなければ、子どもは食事時間に一生懸命食べるようになります。

大人の食事から取り分けて離乳食をつくることが勧められる

■離乳食でも、大人のような栄養バランスが必要でしょうか。
 離乳食は生後5〜6か月頃から始めますが、この時期はつぶしがゆや、すりつぶした野菜などを1さじずつ与えていきます。そして7〜8か月頃になると、主食になるおかゆやパン、麺、副菜である野菜、主菜の肉や魚、豆腐、卵、乳製品を与え、1回あたりの量を徐々に増やしていきます。つまり、大人と同様、主食、副菜、主菜が揃っていればおおむねバランスはとれます。そして1歳くらいになったら、主食・副菜・主菜を大人の2分の1弱、果物を2分の1程度あげれば、量もバランスも整います。
大人の食事を調理する際、ご飯をちょっと軟らかくするとか、煮物や煮魚は醤油や砂糖を加える前に取り分けておくとかすれば、手間もあまりかかりません。ですから、大人の食事から取り分けすると、離乳食づくりは楽に行えます。しかし、大人の食事の栄養バランスがとれていないと、そこから取り分けて作る離乳食の栄養バランスもとれません。その意味では、子どもの食事を考えることは、大人の食事を見直すよいチャンスでもあるのです。

■ベビーフードを利用する家庭も多いのではありませんか。
 味付けや硬さがわからない方にはベビーフードは目安になりますから、上手に利用することもいいでしょう。しかし、出来ればそれだけで済ませないでいただきたいですね。大人と固さ、大きさ、味付けは多少異なっていても、幼いうちから家族みんなが同じ空間を共にして、同じ食事をとることは、家族の絆を育む上でも大切です。
最近では、“個食”といって、同じテーブルを囲んでもそれぞれが好きな食べ物を食べることが問題になっています。しかし、皆が同じものを食べることで、気づくこともあるのです。例えば三世代が一緒に肉料理を食べるとき、高齢者には薄切り肉を用意することがあります。「おばあちゃんは歯が悪くて厚いお肉を噛めないから、薄いのよ」と説明すれば、子どもは自分では楽に噛める肉も、噛むことが難しくなるという事実を知ることから、歳をとることによりどのような現象が起こるのか想像できます。それがきっかけで、思いやりやいたわりの気持ちも芽生えるでしょう。

はっ酵乳などの乳製品は“おやつ”としても、上手に使いたいもの

■はっ酵乳などの乳製品も、離乳食として用いられるのですね。
 ヨーグルトなどの乳製品はたんぱく源やカルシウム源であり、乳製品は小魚など他のカルシウムより吸収率がよいので成長期の子どもには適しています。生後7〜8か月になれば、プレーンヨーグルトなら1回50〜70gくらいはあげられるようになります。また、便秘がちの子どももいますから、整腸作用を考えるとヨーグルトは適しています。最近では子ども用にカルシウムやビタミンDなどを添加したものもありますので、上手に利用するとよいのではないでしょうか。
1歳を過ぎる頃になると、間食(おやつ)は大切な役割をもつようになります。胃が小さいために三度の食事だけでは補えないエネルギーや栄養素を、おやつによって補う必要があるのです。そのため幼児期のおやつは食事の一部と言われます。このおやつとしても、乳製品は適した食品だと思います。つまり、三度の食事で摂れなかった乳製品を、おやつで補うわけです。特に和食では乳製品をあまり使うことがないために、和食が多い家庭では注意していないと摂る機会が少なくなってしまうことがあります。そのような場合はおやつとして乳製品を使うことも勧められます。
また、おやつには“お楽しみ”という役割もあります。つまり、食事とはちょっと違う雰囲気の中で楽しむ食べ物という役割です。その意味でも、かわいいパッケージデザインのヨーグルトなどがあると心が和みますね。さらに、水分補給という意味もおやつにはあります。子どもは大人に比べて体内における水分割合が大きいですし、小さい子どもではのどの渇きを訴えることができませんから、気をつけて水分を摂るようにしていないと脱水症になる危険もあります。そこで水分補給として、牛乳や飲むヨーグルト、乳酸菌飲料などをうまく利用することもよいでしょう。
牛乳や乳製品はカルシウムが豊富で、その吸収率もよいのですが、だからといって水代わりに飲めばエネルギーの過剰摂取になり肥満の原因にもなりますから、節度ある飲み方、食べ方をしたいですね。また、幼児期ではあまり甘いタイプは避けたいものです。特に小さい時期に甘い食べ物に慣らしてしまうと、甘味嗜好の子どもになりかねませんので、最初のうちはプレーンヨーグルト、1歳近くになっておやつが始まったら、ちょっと味のついた子ども用の小容量のものをあげるとよいと思います。

 

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