3.子ども、青少年のための栄養教育

「早寝早起き朝ごはん」国民運動の背景と現況

文部科学省 生涯学習政策局 「早寝早起き朝ごはん」
国民運動プロジェクトチーム 泡渕 栄人

生活環境の変化もあって、子どもたちの生活リズムが大きく乱れてきています。成長期の子どもにとって、このような乱れは、学習意欲や体力、気力の低下とも密接に関係しています。そこで、文部科学省は平成18年度から「子どもの生活リズムの向上プロジェクト」をスタート。民間主導の「早寝早起き朝ごはん」全国協議会も発足し、官民一体となって、望ましい生活習慣育成のための国民運動を進めています。「早寝早起き朝ごはん」国民運動とはどのようなものか、どのような成果が上がっているのかを、文部科学省の泡渕栄人さんにお聞きしました。


子どもの生活リズムを向上させるための国民運動


■「早寝早起き朝ごはん」国民運動とは、どのような運動なのでしょうか。
 多くの人にわかりやすく、受けとめやすい言葉として「早寝早起き朝ごはん」というスローガンを掲げていますが、実際はこれらだけに焦点を当てたものではなく、生活リズム、生活習慣全般を見直していくことが、この運動の主眼です。
 子どもたちが健やかに成長するためには、適切な運動、調和のとれた食事、十分な休養・睡眠が大切です。ところが、最近の子どもたちを見ていると、「よく体を動かし、よく食べ、よく眠る」という、成長期の子どもにとって当たり前で必要不可欠な基本的生活習慣が大きく乱れています。また読書や挨拶など、今までなら当然だとされていたことも当然ではなくなってきました。今や、このような状況を無視できなくなってきたのです。

■確かに子どもたちの生活習慣は乱れているようですね。
 子どもたちの就寝時間に関する民間の調査によると、22時以降に就寝する就学前の幼児の割合は29%にのぼっています。また、平日24時以降に就寝する小・中学生の割合は、小学6年生で12%、中学3年生で64%です。子どもの朝食の摂食状況については、文部科学省委託調査によると、朝食を食べないことがある小中学生の割合は、小学生で14%、中学生で19%に達しています。
  一方、国立教育政策研究所の調査によれば、毎日朝食を食べる子どもほど、ペーパーテストの正答率が高い傾向にあることが、調査した小6と中3の全ての学年・教科において明らかになっています(図1)。

[図1]毎朝朝食をとる子どもほど、ペーパーテストの正答率が高い傾向 ※出典:文部科学省・国立教育政策研究所 平成19年度 全国学力・学習状況調査

このように、基本的生活習慣は、学習意欲や体力、気力と密接に関係していることがわかってきました。

文部科学省と民間主導の全国協議会が連携して取り組む

■「早寝早起き朝ごはん」国民運動は、どのような形で展開されているのでしょうか。
 文部科学省では、子どもの望ましい基本的生活習慣を育成するため、平成18年度から「子どもの生活リズム向上プロジェクト」として、読書や外遊び・スポーツなど様々な活動を実施し、地域ぐるみで生活リズムの向上を図る取組みを推進しています。
 平成19年度は、各地域での取組みの気運の醸成を図るため、全国8カ所でのフォーラム開催を行うこととしています。また、子どもの生活リズム向上に地域ぐるみで取り組んでいる活動に対して調査研究を行ったり、遊びや野菜などに対する子どもの愛着形成の観点で、乳幼児期を中心とした実践的な調査研究などを実施しています。平成19年度の調査研究は全国70地域に委託しました。

「早寝早起き朝ごはん」国民運動 文部科学省の主な取組み

■この運動は、民間主導でも推進されているようですね。
 PTAの組織力や民間企業のPR力を活用してこの運動を広げようと、平成18年4月に「早寝早起き朝ごはん」全国協議会が発足しました。平成20年2月現在、200あまりの団体・個人の会員が加盟しています。この全国協議会が中心となって、「早寝早起き朝ごはん」運動の全国的な普及啓発を展開しています。

「早寝早起き朝ごはん」コミュニティサイト http://www.hayanehayaoki.jp/

 全国協議会では様々な普及啓発活動を行っていますが、その主な取組みとして、「『早寝早起き朝ごはん』コミュニティサイト」を活用した広報活動があります。このサイトは、多いときで1日1,300件あまりものアクセスがあり、この国民運動の広告媒体として中心的な役割を果たしています。
 このサイトの大きな特徴は、“参加事業登録”というシステムを設けていることです。このシステムは、「早寝早起き朝ごはん」運動に賛同する方が、その取組みを「早寝早起き朝ごはん」全国キャンペーン参加事業として登録し、ウェブ上で紹介するというものです。これによって誰もが様々な特色ある取組みを共有できるというメリットがありますし、この“参加事業登録”手続きを通じ、事業主体それぞれが、一つの国民運動に参加しているという意識・一体感を持つことができるのではないかとも考えられます。
 また、“参加事業登録”をすると、「早寝早起き朝ごはん」国民運動参加事業としての共通のシンボルマークも使用できますので、各事業主体の全国的な情報発信力・注目度が高まることも期待できます。この“参加事業登録”は、団体、企業はもちろん、自治体や個人にいたるまで誰でも登録いただけることになっています。

■企業ではどのような取組みが行われているのでしょうか。
 全国協議会では、この国民運動について多くの方々にPRできるように、ポスターの作成や機関誌への掲載など、企業連携による取組みを行っています。やはり、子どもを取り巻く環境が子どもの生活リズムに大きく影響していることを考えると、教育関係や親以外にも幅広くこの運動を理解していただくことが非常に重要だと思います。

「早寝早起き朝ごはん」シンボルマーク

 全国協議会では「早寝早起き朝ごはん」コンテストを実施し、「デザイン」「標語」「フォト」の3部門で作品を募集したのですが、その告知でも企業が作成したポスターが活用されました。
また電車の中吊り広告のPR力も大きく、企業の広報関係の方々からの問い合わせもかなりありました。

 

全国で行われている調査研究ではめざましい成果が見られる

■小学生や乳幼児に対する調査研究事業では、どのような成果が見られましたか。
 例えば品川区立源氏前小学校では、朝の時間帯にサッカーやソフトバレーなどの「自由遊び」や、「竹馬走」「一輪車走」「3人4脚」など子どもたちが考えた種目を行う「いきいきチャレンジ」を平成18年度に実施しました。単に校庭や体育館で遊ぶだけでなく、賞を設定して皆で競い合うというものです。この取組みによって、朝食の欠食の減少やあくびをする児童の減少、給食残菜の減少(図2)、不定愁訴で保健室に来る児童の減少などの効果が得られました。

「早寝早起き朝ごはん」国民運動における企業の協力事例

[図2]品川区立源氏前小学校 「朝の校庭遊びの取り組み」による効果(給食残菜量の減少)

 また、大阪府泉南市では平成18年度と19年度に、大学と連携して朝の遊びに取り組みました。これは体育大学の学生が朝の授業開始前に来校し、校庭や体育館で児童と一緒に遊ぶというもので、これによって遅刻者が非常に減少しました(図3)。

[図3]大阪府泉南市「大学と連携した取り組み等」による効果(遅刻者の減少)

泉南市では、さらに地域住民(主に男性)を巻き込んでの「子ども安全パトロール活動」や「青パト(自主防犯パトロール車)支援事業」なども行いました。「子ども安全パトロール活動」は、登校時の校門前での挨拶運動などが中心ですが、これらの活動によって地域の男性が繋がるという効果もありました。つまり、学校と家庭、地域がうまく連携できるようになったわけです。

今後も、社会全体に対するアプローチをさらに進める

■このような調査研究の結果をみると、何らかのアクションが非常に大切ですね。
 そうです。NHKによる国民生活調査を見ると、1960年頃、日本の成人の大半が夜9時から10時までの間に就寝しており、最も夜更かしの16歳から19歳の若者でさえ、深夜12時以降に起きている人は5%程度しかいないという民間の調査もあります。さらに1970年当時には、既に「10年前より睡眠時間が減り、遅寝になっている」と指摘されています。現在のような生活リズムの乱れは、店舗、テレビの24時間化など、環境の変化が大きな要因の一つですから、子どもや保護者だけでなく、子どもを取り巻く環境を作っている私たち大人にも責任があると思います。ですから社会全体に対するアプローチが非常に重要になると思いますね。

■平成20年度は、何か新たな試みを考えておられますか。
 文部科学省も全国協議会も、基本的にはこれまでの事業を継続することになっています。この運動は、特に数値目標を設定しているわけではありませんが、より多くの方々に生活リズム向上の必要性が浸透するようPRしていきたいと考えています。
 「早寝早起き朝ごはん」国民運動は、小学生などのお子さんがいらっしゃる家庭では、学校などを通して比較的認知されているのですが、それ以外の方々には、まだ知らない方もいるように思います。特に高校生や大学生など、これから親になる世代にも、その必要性を理解していただく必要があります。今後も様々な手法で、あらゆる方々に普及啓発していきたいと考えています。

 

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