子ども時代に様々な“味”を
インプットすることが大切

大留光子 江戸川区立鹿本小学校 学校栄養職員(栄養教諭)
大留 光子

今年の5月に「栄養教諭制度」がスタートし、また6月には「食育基本法」が公布されるなど、子どもに対 する栄養教育が非常に注目されています。栄養教諭の学校への配置は義務ではないため、全国でもそ の導入をしている都道府県はまだ限られており(今年度は福井、高知、長崎の計16人)、東京都での導 入は現在のところ未定でもそのような中、都内でいち早く栄養教諭の免許を取得して精力的な食育を推進している江戸川区立鹿本小学校の大留光子先生に、その活動内容をうかがいました。

子ども時代の豊かな食歴が成人後の食事に反映される

■大留先生が考える、食育の基本方針についてお教えください。
●食というのは人間形成に深く関わっています。味覚の土台を広げることが豊かな人生を送るためには不可欠だと思います。そのためには、いろいろな味や食品を学童期にいかにインプットするかが大事だと思っています。早稲田大学の鈴木正成先生によると、子ども時代から大人になるまで同じものを食べる欧米人などと違い、日本人は子ども時代から、高脂肪食から高炭水化物食まで、幅広い 栄養バランスを体験できて食歴が豊かになるため、中年になると自然に低脂肪食に切り換えられるのだそうです。私自身も子どもの頃にひじきやきんぴらが大嫌いでしたが、30代 40代の頃から自然に食べたくなったんですね。それはどうしてかと考えてみると、私が嫌だと言っても母が「ひと口でも食べなさい」と言って食べさせていたからだと思います。給食で食べていたことも大きく影響しているでしょうね。つまりインプットされていたんです。今は家庭での食事が子どもとお年寄りではまったく違うものになってしまいましたので、せめて給食でいろいろな味覚をインプットしてもらおうと気を配っています。「給食が残った」というその日の答えだけにこだわらず、10年、20年後の答えを信じて、残されてもあきらめずに繰り返し出しています。

■子どもたちの食生活で、気になることはありますか。
●家庭での食生活では和食が減りつつあるように思われます。この地域は三世代世帯が比較的多いのですが、それでも子どもたちの中には豆の料理やあんこを使った食品が嫌いな子どもが多い傾向にあります。最近、学校給食での食品構成の基準が変わり、豆類をより多く摂らないといけなくなったのですが、給食で残す子どもが多いですね。ポークビーンズなどは割と食べてくれるのですが、ウズラ豆の煮物や昆布豆といった和風の料理はなかなか受け入れてもらえません。これは全国的な傾向でもあるようです。
  江戸川区の学校栄養士でつくっている研究会では、今年度、摂りにくい豆類や種実類、海藻、キノコなどをどうやって摂ってもらうか研究しており、私もその分科会でレシピを検討しているところです。

迷う楽しみ、選ぶ喜びを知ってもらうための「えらんでランチ」

■学校での具体的な食育についてお教えください。
● 年間の指導カリキュラムをつくり、発達段階に応じた指導をしています。基本的には、日々の給食での指導、教科と関連づけた指導、そして食に関する指導の3つに分けられます。
  給食時での活動としては、その日の給食の味をインプットしてもらうだけでなく、知識としても覚えてもらうために「ランチニュース」を毎回配っています。また、4年生を対象に「交換ノート」で給食の感想や質問を一人ひとりに書いてもらい、それに対して私が返事を返します。4年生くらいは心が一番発達する時期なので、情操的な意味でも有意義だと思いますね。最初はただ「おいしかった」としか書いていないのですが、返事をいっぱい書いてあげると、次第にどういうふうにおいしかったかを表現してくれるようになります。そのことによって味覚に対する思いが深くなってくれればいいなと思います。


ランチニュース

■給食関連の行事もいろいろあるようですね。
●異学年の交流を促す「なかよし給食」や、バランスのとれた食事を選択する力を身につけるための「カフェテリア給食」などがあります。また、本校の特徴的な給食として「えらんでランチ」というものも学期の最後に行っています。これは主食やおかずをそれぞれ2つのメニューから選べるようにしたもので、事前にメニューを渡して注文をとります。給食はある意味で“おしつけ”ですが、たまには子どもが選択できる、参加できるものがあれば楽しいのではないでしょうか。選べるとなると、子どもたちはすごく悩むんですよ。でも、人生にはどちらかを選ばなければならないこともたくさんありますから、その練習にもなるのではないかと思っています。友達と別のものを注文して、それぞれ分け合って食べてもいいわけですし、いろいろ工夫することも楽しいと思いますね。

食べ物の「3つの色」で栄養バランスを知ってもらうことが基本


■食に関する指導は、どのように行われているのですか。
●子どもたちの発達段階に応じた指導を、各クラスにつき年1回行っています。本校ではこの指導を「ぱくぱくバンビ」と言っているのですが、頭で食べられる、つまりバランス良く考えて食べられることを目標にしています。
  1年生ですと、食べ物は働きによって3つの色(赤=血や肉、骨のもとをつくる食べもの、黄=熱や力のもとになる食べもの、縁=体の調子を整える食べもの)に分けられることを知ってもらうところから始まります。そして私が考案した「たべものにんげん」という、ご飯や魚、パンなどのパーツパネルの教材を使い、栄養バランスのとれた献立を理解してもらいます。例えば、「私も、おうちの人も、献立はこんなふうに考えているんだよ。ご飯は何にしようかな、おかずはどうしようかな。お魚だったら大根おろしかな、お肉だったらニンジンのグラッセかな。デザートも食べたいね。給食だったら牛乳も出るね」と黒板に書いていきます。そして、「こうやって私やおうちの人は食事を考えているけど、では食べたらどうなるかな」と言って、パーツパネルを貼りつけます。そうすると、子どもたちは「あ、たべもの人間だ、ロボットだ」とか言うわけです。では確認してみようと言って、もう1セット用意してあったパネルー裏が人間の身体になっているもの−を貼っていき、「ほら人間になったね」と説明します。「食べ物が身体の中に入っていろいろな働きをすることで身体ができあがるんだよ」と話すと、楽しみながら理解してもらえるようですね。

たべものにんげん

■授業の中でも、いろいろな指導をされてるのですね。
●1年生や2年生なら、生活科の中で空豆・グリーンピースのサヤむきやトウモロコシの皮むきなどを行ったり、3年生、4年生では「味覚の授業」、5年生は社会科で給食材料の産地調べを行います。6年生は家庭科の時間に献立を考えさせ、その中からバランスのよいものを給食に採用したりしています。3、4年生で行う「味覚の授業」というのは、もともとフランスで始まったもので、一流シェフが学校に出向いて4つの味覚(塩味、甘味、酸味、苦み)を教え、最後にシェフの手による料理を食べてもらうというものです。日本では日本味覚教育協会が登録シェフの派遣をしてくれるのですが、本校ではそれができなかったものですから、キッチンバンビ(給食室)のシェフ、つまり調理師さんにお願いしています。3年生の場合は、シェフにバナナケーキをつくってもらい、みんなでテーストして何の味かを当てさせたりもしています。4年生はこの11月に行う予定ですが、“だし”をテーマにしようと検討中です。昆布だしや鰹だし、豚骨やガラなどでのテースティングをやってみたいと考えています。

今後は、乳酸菌と免疫力の関係も教えていきたい

■はっ酵乳や乳酸飲料の意義について、子どもたちにお話することはありますか。
●子どもたちは飲むヨーグルトが好きですね。牛乳を献立に入れないときには、飲むヨーグルトを出すこともあります。ジュースなどに比べるとカルシウムがあるので良いと思いますね。また、チーズを使ったときには、「チーズは、ラクダの背中に積まれて運ばれていたミルクが、揺られているうちに生まれたんだよ」という話をすると結構おもしろがって聞いてくれます。
  今、子どもたちの免疫力が低下しているので、今後は、プロバイオティクスや乳酸菌の良さを授業でも話してみたいと考えています。

■栄養教諭が都でも導入されると、先生の指導の幅は広がりそうですね。
●現在は、食に関連する教科、例えば社会や理科、家庭科などの時間や、学級活動や総合的な学習の時間などを利用させていただきお話をしているのですが、私どもが主体ではなく、あくまでも受動的な立場です。しかし栄養教諭というポジションになると、学校の健康教育計画や保健年間計画などにも積極的に参画し、いろいろな意見を提案しながら計画づくりを行うことができるようになります。個人的には、土曜の夜など、学校施設を利用するなどして、地域住民も巻き込んだ総合的な健康教育にまで踏み込んでいけたらいいですね。

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