訪問栄養食事指導と
乳酸菌の活用


田中 弥生

駒沢女子大学 人間健康学部 健康栄養学科
准教授 田中 弥生

通院などが困難な人の自宅に医師の診断のもとに管理栄養士が訪問し、食生活や栄養に関する様々な相談にのる「訪問栄養食事指導」。栄養管理は口からの摂取が基本ですが、それができない人には、静脈からカテーテルで栄養を入れたり、鼻などからチューブを通して消化器に栄養を入れたりします。絶食が続いて消化器の働きが鈍くなると、「バクテリアル・トランスロケーション」という全身性の感染症が起こるリスクが高まることが、最近注目されています。訪問栄養食事指導の概要や、バクテリアル・トランスロケーションの予防と腸内細菌叢の正常化との関係などについて、駒沢女子大学人間健康学部健康栄養学科准教授の田中弥生先生にお聞きしました。


在宅医療や在宅介護での食生活を支える訪問栄養食事指導


■まず、訪問栄養食事指導とはどのようなものかをお教えください。
 訪問栄養食事指導は、通院などが困難な人のために、医師の診断のもとに管理栄養士が家庭に定期的に訪問し、療養に必要な栄養や食事の管理や指導をするものです。医療保険や介護保険が適用され、その場合は月2回まで利用できます。訪問栄養食事指導の対象者は、医療保険では、腎臓病や糖尿病、肝臓病、胃潰瘍、貧血、膵臓病、脂質異常症、痛風、高血圧、心臓病などで食事管理が必要な人で、介護保険ではこれらに加えて、嚥下困難で流動食が必要な人、低栄養状態の改善が必要な人が対象になります。

■訪問栄養食事指導では、どのようなことを指導するのでしょうか。
 食事摂取量や栄養状態のチェックを行い、栄養ケアプランを立てます。そのプランの中には買い物指導、ヘルパーさんがいる場合はヘルパーさんへの指導も含まれます。患者さんの状態に合わせた食事内容や形態などの指導や、栄養補助食品や介護用食品・食器などの紹介、その他、療養生活に関わる様々な相談にも対応します。
 もともと医療保険での在宅訪問栄養食事指導が始まったのは平成6年で、さらに平成12年の介護保険スタートとともに介護保険の適用となりましたが、その前は管理栄養士による指導には診療報酬や介護報酬がつかず、私の場合は無料サービスで行っていました。二十数年前、透析患者さんの家庭訪問を始めた頃は、患者さんの多くは、病院での医師や栄養士の指導に「はい、わかりました」と素直に聞いてくれるのに、病院を一歩離れるとその指導内容になかなか従ってくれませんでした。そのようなことから、もっと患者さんの身近なところから関わるべきだと感じて訪問を始めたわけです。

■田中先生は、全国在宅訪問栄養食事指導研究会の初代会長も務められたのですね。
 はい。平成6年に医療保険の在宅訪問栄養食事指導がスタートしたときは、おそらく全国でもこのようなことに関わっている人は私を含めて二人程度だったと記憶しています。そこで、さらに栄養士同士の情報交換を活性化しようと、平成8年に有志が集まって全国在宅訪問栄養食事指導研究会を発足しました。

患者さんの状態に合わせて最適な食事内容や食事形態を指導

■高齢者の場合は、低栄養状態によって指導が必要となる人がいるのですね。
 低栄養状態とは日常生活に必要なたんぱく質やエネルギーが不足している状態で、一般的に血液中のアルブミンというたんぱく質の量を指標に診断します。低栄養は、いろいろな病気によって引き起こされます。例えば消化器のがんで食べられなくなったり、脳血管障害による嚥下障害から食べられなくなったり、認知症から食事をとることができなくなって低栄養になることもあります。低栄養になると、特にお年寄りなどは寝たきりになりやすく、臓器全体の働きも鈍ってきます。
 寝たきりになると褥瘡(床ずれ)が起きやすくなりますが、栄養状態の低下は褥瘡の悪化を促進します。そのため栄養管理が不可欠なのですが、現在のところ低栄養と認められた後期高齢者の栄養管理指導だけに介護保険や医療保険が適用され、褥瘡だけでは適用されません。また、慢性気管支炎や肺気腫といったCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の患者さんは息切れがひどく、たくさん食べても呼吸のエネルギーとして消費されてしまうため体重が減少していく人が多く見られます。ところがこのような人はアルブミン値がほとんど変わらないのです。そのため低栄養の規定から外れてしまうといった問題もあります。

■口から食事を摂取できない人ではどのような方法をとるのでしょうか。
 大きく分けると鎖骨下静脈などにカテーテルを通して静脈に栄養を送り込む「中心静脈栄養」と、チューブを胃や腸に挿入して流動食などを送り込む「経腸栄養」という方法があります。さらに経腸栄養には、鼻からチューブを入れる方法や、胃瘻や腸瘻といってお腹と胃や腸に穴を開けて、そこからチューブを通す方法などがあります。一般的に消化管の機能が維持されている場合は経腸栄養を、機能が低下している人の場合は中心静脈栄養を使うことになります。また、経口摂取や経腸栄養が不十分な場合に、腕などの静脈から水分や栄養を補充する「末梢静脈栄養」を併用するケースもあります。

■口から食べられる人に対しては、調理法などの指導を行うのでしょうか。
 そうです。のようなチャートを使って食欲や咀嚼能力、胃腸や歯の状態をチェックし、食材をつぶす程度やとろみのつけかたなど、最もその方に適した、食べやすい食事の形態を考えます。最近では市販されている介護用食品をユニバーサルデザインフードとして4段階に分けるなど、いろいろな指標を見ながら評価していきます。そしてそれを家族やヘルパーさんなどに指導するわけです。あまりとろみのつけ方が薄くてサラサラした状態だと、患者さんによっては食べたものが気道に入って誤嚥性肺炎を起こしてしまうことがあります。場合によっては複数のヘルパーさんが一人の患者さんのお手伝いをしていることがあるので、その全員にしっかり指導することが不可欠になります。
 このような指導には管理栄養士だけが関わっているわけではありません。咀嚼訓練は歯科医師や歯科衛生士が、嚥下の問題については言語聴覚士が担当するなど、チームで行うことが増えています。

[図] 食事づくりのためのフローチャート

[図]食事づくりのためのフローチャート

バクテリアル・トランスロケーションの予防と腸内細菌叢の正常化

■胃や腸が使える場合は、経腸栄養のほうがよいわけですね。
 そうです。中心静脈栄養などのために腸が使われていないと、腸の蠕動運動が低下したり、小腸の絨毛が萎縮したりして腸管粘膜の免疫防御機構が破綻してきます。そうなると、「バクテリアル・トランスロケーション」といって、異常繁殖した腸内細菌が腸管のバリアを超えて血管内に侵入して全身の感染症を引き起こすことがあるのです。
 通常、中心静脈栄養から経腸栄養に移行するときは、栄養剤を入れる前に水を入れるのですが、最近では腸を刺激するために、水の代わりに大塚製薬のGFOなどの、グルタミン酸と食物繊維、オリゴ糖を混ぜた溶液を使って小腸絨毛の萎縮を防ぐ方法が行われるようになってきました。これで腸が動き出したかどうかを確認した上で経腸栄養を始めるわけです。その際、GFOの代わりに乳酸菌飲料を使うこともあります。これらを使って腸内細菌叢を良好にしてから経腸栄養剤を使うことで、早期に消化管の機能を回復させ、その後の経口摂取への移行をスムーズにさせるのです。

■経腸栄養の人の場合、お通じは普通にあるのですか。
 経腸栄養では胃も小腸も大腸も使うので、当然便はしっかり出ますし栄養も普通に吸収されますが、やや泥状便気味の人が多いですね。そこで、食物繊維や乳酸菌が含まれている経腸栄養剤などを使って便を正常にしていきます。一方、中心静脈栄養は消化器を使わないので、ほとんど残渣だけが出るという状態で、看護師が管理している場合は1週間から10日に1回、浣腸して摘便する必要がある場合もあります。
 経口摂取ができる方でも、食中毒予防のためにも食べた後の便状のチェックは最も重要視しています。また、排便回数が2日に1日程度の人も少なくありません。ですから、在宅での栄養管理に乳酸菌飲料やヨーグルトをよくお勧めします。しかし、同じ商品を使い続けていると効果が薄れてくることもあるようです。そこで、そのとき流行しているプロバイオティクスを取り入れてみるなど、いろいろな乳酸菌飲料やヨーグルトを順番に変えていくようなこともよく行います。経口摂取ができる人も経腸栄養の人も、腸の働きを維持することは非常に大切だと思います。

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