高齢者に対する
栄養サポートと乳製品


特定非営利活動法人 すぎなみ栄養と食の会
理事長 高畑 淑子

特定非営利活動法人すぎなみ栄養と食の会は、その前身である杉並区地域活動栄養士会の時代を含めて20年以上にわたり、地域に密着した管理栄養士・栄養士として市民の健康増進や食生活の向上に努めています。高齢者に対しては、杉並区の介護予防事業に協力して、栄養改善教室などを実施。食材を一緒に買いに行き、一緒に料理をつくるという、参加者一人ひとりの実情に応じたきめ細かなサポートは、東京でトップレベルとの非常に高い評価を得ています。その取組みと、高齢者にとっての栄養摂取のあり方などを、理事長の高畑淑子さんをはじめ、会の皆さんにお聞きしました。


身近な管理栄養士・栄養士として地域住民の健康増進・食生活向上に努める


■まず、貴会の活動内容をお聞かせください。
 地域に密着した管理栄養士・栄養士として、専門的知識や技術を活かし、赤ちゃんから高齢者の皆さんの健康増進や食生活向上のために、様々な活動を市民の協力を得ながら、また公共団体と協働しながら行っています。具体的な活動としては、栄養相談や料理教室、高齢者・障害者への食事づくり支援、健康講座などがあります。
 会の発足は平成元年で、当初は「杉並区在宅栄養士会」の名称でスタートし、平成17年に現在のNPO法人になりました。高齢者の方に対しては、平成12年の介護保険制度開始前から訪問栄養指導や栄養講座などを行っています。平成18年に介護保険制度の改正があり、介護予防という視点が取り入れられました。その対象となる特定高齢者の方々の低栄養予防事業「栄養改善教室」を、杉並区と協働で区内21地区、年間100回余の教室開催を担当しており、「転倒予防教室」「リフレッシュ!リハビリ教室」の栄養・食事の講座にも関わっています。その他介護者への講座や一般グループでの料理教室などのご依頼も受けています。

■高齢者の方以外を対象とした活動としては、どのようなものに力を入れられていますか?
 杉並区では、3年前に「杉並子育て応援券」を使った独自の子育て支援事業を始めました。これは、杉並区在住の就学前のお子さんがいる保護者の方を対象とした制度で、最高6万円の券を年に1回区役所からもらえるというものです。この応援券を利用して様々な親子での体験講座や親子参加イベント、子育て講座などが受けられます。私たちの会もこの応援券を使った親子料理教室を毎月1〜2回開催しています。このような教室を通して、小さい頃から食べ物に関心を持ってもらい、食事づくりを体験してもらいたいと考えています。若いお母さん方にも何とか食育を広めたいですね。

動物性の脂肪やたんぱく質は高齢者にも不可欠

■介護予防の「栄養改善教室」では、どのようなことをされているのでしょうか。
 1教室は全5回で、期間は半年です。1回目は栄養に関する話を中心に行い、2回目以降は利用者さんと一緒に食材を買いに出かけ、料理を実際につくってもらいながら調理の仕方や、食生活上の注意点などを学んでもらうという流れです。
 利用者さんは、とても元気な方もいれば、歩くのが大変な方もいるので、それぞれに合わせて、買い物や調理などでも無理のないように配慮します。調理では、簡単につくれてすぐに食べられるような調理法や、電子レンジの活用法などをアドバイスすると喜ばれます。例えば、ピーマンの細切りに塩昆布をかけて、ラップをして電子レンジで1分くらい温める調理法をご紹介したところ、とても好評でした。

■高齢者の方々の食生活は、どのような傾向にありますか。
 どうしても高齢になると肉類の摂取が少なくなり、魚やあっさりした大豆製品などを好まれるようになります。しかし、「肉も体にとっては大切なものなので、少なくてもいいから毎日摂るように心がけましょう」とお話ししています。「細胞膜やホルモンなどがつくられる際も脂肪が不可欠なので、高脂肪の上質なアイスクリームなどもいいですよ」とお勧めすることもあります。高齢な方は、お孫さんにこのような栄養豊富な食品を与えて、ご自分は粗食で済ませてしまいがちです。そうではなく、高齢になるとたくさんは食べられませんから、なおさら栄養豊富な食品を意識して食べなければならないことをお伝えしています。
 また、バランスのとれた食事を選ぶためのツールとして、東京都老人総合研究所が作成した「クック10 チェックシート」をアレンジしてお渡ししたりもします(図参照)。「クック10」は、魚、肉、卵、牛乳、豆製品、緑黄色野菜、淡色野菜、芋、ご飯・麺・パン、果物の10種類を1日に摂る目安を記したものです。朝食に卵を食べたら昼食は肉、夕食は魚、豆腐はお吸い物に入れ、おやつに牛乳を飲むというように、少しずつでもよいので摂りましょうと勧めます。
 この「クック10」には数え歌があります。「ウオイチ ニクイチ タマゴイチ ギュウニュウヒトツニ マメヒトツ ヤサイハヨサラニ ゴハンタベ オヤツハクダモノ タベマショウ」を「みかんの花咲く丘」に合わせて歌うというもので、栄養改善教室などで皆さんと一緒に歌ったりもします。そうすると皆さん元気が出て、活発に話してくださるようになります。

[図]クック10 チェックシート

[図]クック10 チェックシート

栄養改善教室に参加して体重が増えた人もいた

■栄養改善教室で高齢者の食事や栄養に変化はありましたか。
 教室の初回と最終回にアンケート調査を行っているのですが、初めは肉を食べなかったり卵を嫌っていた人も、私たちのお話を聞いたり、買い物や料理を一緒にすることで、食べるようになる方が随分います。また、インスタント食品やレトルト食品の利用の仕方、電子レンジの効果的な使い方などを知ることで、楽に料理ができるようになったという方もいます。お孫さんに「クック10」を教えたことで、共通の話題ができたという回答もありました。教室に参加した半年間で体重が1kgとか1.5kg増えて感謝された方もいました。高齢になってから体重が増えるのは大変なことなのです。また、初めは区の専用バスで教室に来るのをおっくうがっていたのに、バスに乗り合わせた人と友達になれて、とても喜ばれたこともありました。知識や技術の習得だけでなく、このような精神的な効果も大きな意味があると思います。
 私たちは、この教室をもっと多くの方が利用できるように、対象者選定の改善を望んでいます。

■「転倒予防教室」や「リフレッシュリハビリ教室」でも栄養指導を行っているのですね。
 そうです。どちらの教室も運動がメインで、そのうちの1〜2回分で栄養や食事の話をするというプログラムです。やはりバランスよく食べることが基本になりますから、「その日の朝食と昼食に何を食べたのか、では夕食はどのような献立にすればよいのか」といったことを考えてもらったりします。1時間の講義の間、集中力を維持するのは難しいので、手作りの料理カードを使って、「主菜にあたる食品はどれか、副菜はどれか」を知っていただいたり、市販の食材カルタを使ったりして、ゲーム感覚で楽しみながら学んでいただいています。

乳製品に限らず、様々な食品からたんぱく質やカルシウムを摂ることが大切

■はっ酵乳を勧められることはありますか。
 牛乳が飲めない方には「ヨーグルトも同じような栄養価だからいいですよ」とお勧めします。ヨーグルトを召し上がる方は多いですね。高齢者の中には、ある程度の年齢になるとカルシウムを摂っても無駄と思われている方もいらっしゃいますが、そうではなく、骨は何歳になっても毎日つくりかえられていること、そのためには体の中に材料であるカルシウムやたんぱく質をしっかり入れていかないといけないことなどを必ずお伝えします。牛乳でもヨーグルトでも、うまく体の中に取り込む工夫をしなければなりません。今は食育やメタボリックシンドロームが注目され、乳業メーカーさんもそれらに向けた商品に力を注いでいるようですが、これからは高齢者を対象とした商品ももっと考えていただけるといいですね。
 たんぱく質の構成成分であるアミノ酸は食品によって異なりますから、いろいろなアミノ酸を摂取するためには乳製品だけを摂ればよいというわけではありません。骨を丈夫にするためにも、乳製品だけに頼らずにいろいろな食品を摂る必要があることも高齢者の方にはお話しします。

■はっ酵乳や乳酸菌飲料は便秘予防にもなりますね。
 確かにそうですが、高齢者で便秘を訴える方は意外と少ないですね。その理由は、野菜をたくさん摂っているからかもしれません。厚生労働省のデータ(平成19年国民健康・栄養調査の概要)では、日本人の野菜の目標摂取量は1日350gですが、平均摂取量は290gです。一方、60歳〜69歳では334g、70歳以上では305gと、高齢者の場合はもう少しで目標摂取量に届きます。
 最近の高齢者はテレビなどから栄養や食事に関する知識をよく得ている反面、ご自身はその心配がないのにメタボリックシンドロームを気にして、摂取する食品をいろいろと制限されている方もいます。例えば、卵類はコレステロールが高くなるという意識が強く、自分の数値に問題がないにもかかわらず敬遠する方もいます。このような方には、今のご自分にとって必要な知識を知っていただくことが大切だと思います。
 現在の制度では、今元気と思っている高齢者の方に、医療保険を使わないですむような、健康状態を維持していただくためのシステムが整っていません。また知識レベルは高いにも関わらず、なかなか実行に移せていない方が多いといえます。一緒に食事をつくって一緒に食べながら、正しい知識や食習慣を身につけていっていただくような取組みをもっと進めていきたいと考えています。

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