老人保健施設における栄養ケア・マネジメント

奈良 典子 介護老人保健施設相模大野
管理栄養士 清水 幸子

昨年10月、介護保険制度が改正され、介護保険施設では介護予防に重点を置いた栄養ケア・マネジメントを行うことが求められるようになり、管理栄養士の技術に初めて介護報酬上の評価がされるようになりました。以前から栄養ケア・マネジメントに取り組み、今回の改正ではそのモデルケースとなった老人保健施設相模大野の清水さんに、同施設での取り組みとともに高齢者におけるはっ酵乳や乳酸菌飲料の意義をお聞きしました。

栄養ケア・マネジメントは何を目標としているのか

■栄養ケア・マネジメントが昨年から施行されるようになり、管理栄養士の役割はどのように変わったのでしょうか。
●これまで管理栄養士は食事という“もの”を提供することを中心とした業務を行ってきたわけですが、これからは個々の“人”を中心とした業務に変えていかなければいけないというのが、栄養ケア・マネジメントの基本的な考え方です。高齢者一人ひとりの生き方は当然違うわけですから、その生き方をどう支えていくのか、どうやったらその人らしく尊厳を持って生きていくための身体を保つことができるのかを考えていかなければならないということです。
  栄養士のこのような取り組みは、もともとアメリカで30年ほど前に始まりました。医療の目的は病気を治療することですが、病気は治っても、患者さんの栄養状態がよくなければ在院日数は長くなってしまいますし、手術の効果も上がらないことがわかってきたわけです。そこでアメリカの栄養士は立ち上がり、積極的に栄養ケアに介入するようになったという経緯があります。それが日本でようやく始まったということです。

 

「多職種協働」によって適切な対応が可能に

■具体的に、どのような形で取り組まれているのでしょうか。
●このような施設は通常一人しか管理栄養士がいませんが、その一人が栄養ケアの全てを行う能力を持つのは不可能です。専門職一人ひとりが協力して多方面から見ていきながら、より適切なケアを行うためのプランを立てられるように、環境を整えることが大切です。そこで今回の栄養ケア・マネジメントでは「多職種協働」が求められています。
  多職種協働を始めてみて素晴らしいと感じたのは、栄養状態をみる際でも、例えばナースなら「この人は脱水があるから潜在的な栄養不良があるかもしれない」と指摘するわけです。また、ケアワーカーからは「家族がなかなか訪問されないために寂しくてご飯が食べられない」というような情報が来る。一つの数値を見るときに、様々なスタッフの目を通すことによって、適切な対処ができるわけです。具合が悪くなって始めて対処するのではなく、水際で改善できる。そうすると、入所者の方も皆から大切にされていると実感できて、元気になっていくんですね。
  多職種協働によって職員の意識が変わってきたということも大きなメリットでした。その人にとって何が大事かということを考えていったときに、“私たちがしたいこと”ではなく、“対象者であるその人がしたいこと”をしてあげるためには私たちがどう変わればいいのかを、施設全体で考えることが始まったのです。「あの人は今何を望んでいるんだろうか」という言葉が頻繁に会話の中に出てくるようになりました。つまり、一人ひとりが尊厳をもって認められるという環境が、栄養ケア・マネジメントをひとつのきっかけとしてできあがったのだと感じています。


■各スタッフが知り得た情報は、どのようにして共有しているのでしょうか。
●それぞれの職種が各役割を通じて気づいたことは、各人がシートに記入し、イントラネットで掲示しています。例えばリハビリ室で計測した体重や身長などのデータを元に、栄養士が栄養量や目標とする体重などを一覧にし、そのためのプランや、プランどおり行えているかといった評価などを掲示しています。それによって全ての職員がフロアごとのパソコンで対象者のケアの方向性を確認できるわけです。

「尊厳ある自己実現」に寄与するための栄養ケア・マネジメント

■栄養ケア・マネジメントに取り組まれて、成果は現れてきていますか。
●現在、長期入所の方が86人いらっしゃるのですが、約6割の人で体型評価の指標となるBMI※が増加しており、半数以上の人で栄養状態の指標となる血清アルブミンが増加しました。これらは栄養を改善していく中でよくなったわけですが、数値を上げることが目的なのではありません。「尊厳ある自己実現」に寄与できたかが最終的な目標です。つまりその人が「生きていくことが幸せだ」と感じること、「今日元気で生きていられた、明日も元気でいたい」と思えることが大事なのです。

 例えばある入所者の方は、病院で骨折をしてこちらに入所してきたのですが、その当時は寝たきりで、何もやる気がなく、絵を描いてもらおうとしてもまったく描くことができませんでした。1年後には車椅子を使うようになり、絵もなんとか描けるようになったのですが非常に暗い絵で、「こんなところに捨てられた」と不満ばかりでした。ところがさらに半年ほどして食事がしっかり食べられるようになると歩行訓練器具を使って歩けるようになり、クラブ活動にも参加するようになりました。絵も鮮やかな色を使ったものへと変化してきました。自分の食べたい物を自分で食べられるようになり、栄養状態も非常に向上しました。そして2年後には、とてもきれいな絵を描けるまでになり、外出や外泊の頻度も増加したのです。さらに2年半たった現在、絵だけでなく自分の心境も書き添えられるようにまでなりました。やはり身体が元気にならないと精神面も元気になれないのですね。

介護保険施設にとってのはっ酵乳・乳酸菌の意義とは

■高齢者にとって、ヨーグルトや乳酸菌飲料は何らかの意義があるとお考えですか。
●それは大いにあると思います。かつて、私どもでは寝る前に温かい牛乳を提供し、朝起きたら乳酸菌飲料(ヤクルト)を毎日飲んでもらっていました。寝る前の牛乳は、それによって身体が温まりますし、入眠にとても効果的だという文献があったからです。また、カルシウムは精神的な安定に効果があると言われていますし、寝る前に牛乳を摂取することでカルシウムの蓄積にも役立つだろうということもありました。
  乳酸菌飲料は、朝起きてすぐにエネルギーを補給できることのメリットは大きいだろうと言うことで飲んでもらっていました。当施設では夕食が午後6時で朝食が午前8時頃ですので、半日以上食事を摂らない時間があります。すると朝方転倒する人がいるのですね。その予防に朝一番のエネルギー摂取が有効だと考えたわけです。また、乳酸菌の腸内での活動も見逃せませんでした。さらに朝飲むことで蠕動運動が活発になってスムーズな排便につながるということも、乳酸菌飲料を提供していた理由です。
  現在は経済的な問題もあり、また要介護度が高くなって医療面でのケアが必要な方が増えてしまったこともあってやめてしまったのですが、軽度の入所者がいるグループホームなどではお勧めではないかと思いますね。

■食事に乳製品やヨーグルトなどを提供することはよくあるのですか。
●意外に乳製品を使った献立は喫食率がいいですね。生クリームや牛乳、ホワイトソース、ヨーグルト和えなどは口当たりがいいですし、塩分の制限もできるので使いやすい食材だと言えます。また、洋風の食事は栄養量の確保も楽ですし、エネルギーを上げることもできる、たんぱく質も楽に摂れるので、洋風の献立は結構たくさんあります。
  また、朝は牛乳かヨーグルトを必ず提供しています。主食がパンのときは水分が足りなくなるので牛乳を添えますが、ご飯のときは必ずヨーグルトを出します。それによって腸内細菌の状態が良くなれば下剤も少なくて済みますし、お薬も減るので経済効果もあるのではないかと思います。
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