食生活の見直し

食生活と機能性便秘の関係

東京大学大学院 医学系研究科公共健康医学専攻 教授 佐々木 敏

 


ごはんの摂取量と便秘の関連


■便秘と食生活に関する研究は、世界的によく行われているのですか。
 欧米諸国を含めても意外と少なく、日本人を対象とした科学的な研究はほとんどされていないのが現状です。私たちが食習慣と機能性便秘(大腸そのものに異常はないが、大腸の機能が低下したために起こる便秘)の関係について初めて調査したのは1997年のことで、18歳から20歳の女子大生約2,000人を解析しました。その調査には二つのテーマがあり、一つは、様々な食品と便秘との関連性を調べることでした。調査の結果、ごはんの摂取量が多いほど機能性便秘が少ないという結果が得られました。もう一つのテーマは、機能性便秘をどう評価するかということでした。当時は機能性便秘をしっかり調査する方法を私たちは持っていませんでしたので、「あなたは便秘がちですか」という質問をして、「はい」「ときどき」「いいえ」の三つから一つを選んでもらうという質問をしたのですが、それが実際の便秘とどれくらいの相関があるかを、別の集団を用いて確認しました。その結果、かなり相関が高かったので、これをEuropean Journal of Clinical Nutritionという臨床栄養学雑誌に発表しました。

■そして、昨年再び同様の研究発表をされたわけですね。
 そうです。2004年、18歳から20歳の女子大生3,835人を対象に調査を行い、その解析結果を2007年に発表しました。今回は便秘に関してさらに世界レベルの研究を行おうと、便秘の判定では世界的な診断基準となっているローマT(RomeT)基準を用い(表1)、食事については私どもで開発した質問票を使って機能性便秘と食生活の関係を調べました。
 この調査では、全体の約26%(1,002人)が機能性便秘とみなされました。便秘と食品の関係では、図1のようにごはんの摂取量が多いほど便秘が少ない傾向がみられ、前回調査の結果が裏付けられました。最もごはんを食べる集団では、最も食べない集団より4割程度も機能性便秘が少なかったのです。その他、豆類の摂取量が多いほど機能性便秘が少なく、反対にお菓子やパンの摂取量が多いほど機能性便秘が多くなっていました。ごはんと便秘の関係を示唆する研究は今までもいくつかあるので、両者の関連性は確かかもしれません。しかしお菓子やパン類との関係を示す研究はほかにあまりないようなので、これらについてはまだはっきりしたことは言えそうにもありません。

(表1)RomeT基準を用いた機能性便秘についての質問(概要)

(図1)食品摂取量別にみた便秘出現のオッズ比

■はっ酵乳については調べられましたか。
 ヨーグルトの習慣的摂取量も調査項目の中に入っていましたが、ヨーグルト単独ではなく、牛乳と一緒に乳製品として解析するにとどめました。その結果では、便秘との関連は見られませんでした。今後、ヨーグルトだけを取り出して調べてみても面白いかもしれませんね。

食物繊維、水、マグネシウムの摂取量と便秘との関連

■よく食物繊維が便秘を予防すると言われますが、その分析も行われましたか。
 先ほどと同じデータを用いて、食物繊維、水、マグネシウムに焦点を絞って解析したのですが、意外なことに食物繊維については機能性便秘との関連性は見られませんでした。しかし、図2で示すように食べ物(固形食品)からの水分摂取量やマグネシウム摂取量との関連は見られました。食べ物からの水分摂取量、あるいはマグネシウム摂取量が少ない人では機能性便秘が多くなっていたのです。ただし飲料水やジュース、お茶など、飲む水との関係は見られませんでした。

(図2)栄養素摂取別にみた便秘出現オッズ比

■水を多く含む食べ物としては、どんな食品が便秘の発生頻度を下げる方向に働いていると考えられるのでしょうか。
 やはりごはんだと思われます。というのも、今回の解析では野菜や果物と便秘との関連性はほとんど得られなかったからです。野菜や果物は水分含量が高い典型的な食品ですが、それらに比べてごはんは大量に食べるのでこのような結果になったのではないかと思います。
 マグネシウムは便秘のときに使う薬ですから、便の軟化作用はあると考えられます。しかし食品の中に含まれるマグネシウムは薬剤のマグネシウムに比べるとはるかに量が少ないので、食品中の微量なマグネシウムに便秘予防効果があるかどうかはまだよくわかりません。

食品摂取パターンと便秘との関連

■日常の食生活と便秘との関連性についても調べられたそうですね。
 そうです。普通、私たちは食品や栄養素を単独で摂ることはほとんどなく、複数の食品や食材料を組み合わせた料理や食事を食べています。そこで、私たちが普段食べている食事にできるだけ近い状態で食習慣と便秘との関連について調べるために、食品摂取パターンという、摂取する食品の傾向を総合的にとらえる方法で調査・研究を行いました。
 この調査は、2005年に全国53施設の栄養関連学科に入学した18歳から20歳の女性3,770人の協力を得て実施しました。食習慣と生活習慣についての質問票に載っている食品148品目について調べ、それを20の食品群に分類して摂取傾向をみたところ、主要な食品摂取パターンとして、図3のように、野菜や魚介類などの多い「健康型」、ごはんやみそ汁、大豆製品が多い「伝統的日本食型」、肉類や油脂類などが多い「欧米型」、コーヒーや牛乳、乳製品が多い「コーヒー・乳製品型」の4パターンが導き出されました。この4パターンについてその度合いの強さによってそれぞれ5群に分けて機能性便秘との関連性を調べたところ、図4で示したように「伝統的日本食型」の度合いが高くなるにつれて機能性便秘の人が有意に少なくなっていました。一方、その他のパターンについては機能性便秘との関連は認められませんでした。このような結果から、ごはんやみそ汁、大豆製品が豊富で、お菓子やパンの摂取量が少ない食品摂取パターンが、便秘の予防には好ましい影響を与えている可能性があると考えられます。

(図3)食品摂取パターンの特徴

(図4)食パターンの強さ別にみた便秘出現のオッズ比

■この4パターンは、あらかじめ想定して分類したものではないのですね。
 そうです。調査した3,770人の食べ方を分析した結果、この4パターンが浮かび上がってきたわけであり、「健康型」や「伝統的日本食型」というような呼び方は、その特徴を捉えて便宜的に名付けたに過ぎません。ですから「伝統的日本食型」は、私たちが通常イメージするような日本的な食事というわけではありません。

調査方法の開発により緻密な研究が可能になった

■この調査で使われた質問票は、対象者に食事記録を書いてもらうようなものですか。
 そうではありません。短期間の食事記録では、習慣的な傾向を知ることはできません。便秘やガンなどは習慣的な食べ方が影響しますから、食事記録では研究が成り立たないのです。私たちはそのための調査方法やプログラミングなども開発しており、食事歴法というヨーロッパでよく使われている方法を日本型に変えて質問票をつくりました。これは、およそ1カ月間の食事について、どのようなものを食べたか、どのような食べ方をしたかなどを答えてもらう方法です(図5)。この調査では16ページの質問票を使いましたが、現在は少し質問項目を増やして22ページのバージョンを使っています。回答に要する時間は40分程度です。

(図5)調査で使われた質問票

■1カ月間の食事というと、なかなか思い出すのは難しいですね。
 うまく思い出せなくていいのです。あまり深く考えずに第一印象で答えてもらえば、それで傾向がわかるようにできています。

■その他に、機能性便秘に関連しそうな食品や食習慣はありそうですか。
 私たちの研究では以上の結果が全てです。そもそも日本人の食生活の中で、食べ方と便秘の関係を調べた研究論文はほとんどありません。今回の研究は調査対象者が18〜20歳の女性に限られていますから、この結果が全ての日本人に当てはまるとは限りません。科学的な根拠として十分なものにするためにも、他の集団に対する同様の研究が必要だと思います。

 

トップへ戻る 一覧へ戻る