腎臓病の栄養指導を進める上で
重要となるものとは

昭和大学藤が丘病院 栄養科 係長 菅野丈夫

昭和大学藤が丘病院は、腎臓病の食事療法の第一人者である出浦照國先生(客員教授)がいらっしゃることで有名です。腎不全になると非常に厳しい食事制限を行わなければなりませんが、病態などは患者さん個々で異なるため、個別の栄養指導が非常に重要になってきます。今回は、出浦先生の食事療法を補佐しながら腎臓病の栄養指導を積極的に推進している栄養科の菅野丈夫係長に、その基本についてお話を伺いました。

個々の患者さんに合わせて栄養指導を行う

■栄養科の日常業務についてお聞かせください。
●当院は給食管理業務を委託にしていますので、栄養科が行う仕事としては栄養指導を中心とした臨床栄養業務と献立の作成が主体になります。現在、管理栄養士が5名、栄養士が1名おり、管理栄養士の場合、多くの時間を栄養指導業務に費やしています。
栄養指導の基本は個別指導です。食事療法は患者さんの生活背景や食習慣などに深く関与するものです。病態や生活背景、食習慣は患者さん一人ひとりで異なりますから、それぞれの患者さんに合わせた形で指導するわけです。一方、腎臓病教室や糖尿病教室などは全ての患者さんに共通する項目、例えば腎臓病でしたら、それがどのような病気かとか、食事療法はなぜ大切で、どのような治療効果が期待できるかなどを集団に対して指導しています。

■栄養指導の頻度が多い病気としては、どのようなものがありますか。
●当院には腎臓病の食事療法で有名な出浦教授がいらっしゃるので、件数として一番多いのは腎不全で、その次が糖尿病です。後は高血圧や高脂血症などですね。栄養指導はほとんどが外来での対応、つまり患者さんの外来受診の際にその都度栄養指導を行うということになります。栄養指導は1回では終わりません。特に慢性腎不全や糖尿病は完治しない病気ですから、原則として永続的に行います。

なぜ腎不全では、カルシウムが豊富な乳製品は勧められないか

■腎不全の栄養指導の具体的な内容をお教えください。
●まず腎の働きと腎不全の病態、つまり腎不全とはどのような病気かということから入り、食事療法がなぜ重要で、どのようなところがポイントになるかをお話しします。最初から具体的な食事療法のお話をしても、患者さんになぜ食事療法が重要なのかを理解・納得してもらえないと、なかなか食事療法を継続してもらえません。ですから食事療法の重要性について納得してもらうところから始めるわけです。
その後、1日に何をどれくらい食べたらよいかや、どのようにして献立を考えたらよいか、あるいは食塩の抑え方などを指導します。低たんぱく食事療法ですと、治療用特殊食品の使用が不可欠ですから、そのような食品の紹介や使い方などもお教えします。
患者さんがご自分で食事をコントロールできるようになると、実際にどれくらいのたんぱく質や食塩を摂取しているかをチェックします。これは1日24時間の蓄尿の検査から計算します。1日分の尿への尿素窒素(たんぱく質の分解産物)やナトリウムの排泄量を見ることで、たんぱく質や食塩をどれくらい摂取しているかを客観的に把握するわけです。

■なぜ腎不全の場合はたんぱく質を制限する必要があるのでしょうか。
●3大栄養素には糖質、脂質、たんぱく質がありますね。糖質や脂質は体内で燃焼すると水と二酸化炭素になり、腎以外に皮膚や肺からも排泄されますが、たんぱく質が燃焼すると尿素窒素になり、腎臓からしか排泄されません。したがって、たんぱく質の過剰摂取は腎臓にとって負担になるわけです。
また、慢性腎不全になると食事で摂取したリンがうまく尿中に排泄されなくなり、血液中にリンが溜まってきます。これを高リン血症というのですが、これがあまり高度になると異所性石灰化といって骨が弱くなったり、腎機能がさらに悪化したりする原因になります。低たんぱく食にするとリンの摂取量も抑えられますから、その意味でも低たんぱく食事療法は必要なのです。
腎不全が高度になってくると食事療法だけでは高リン血症の是正が困難になってきますから、リン吸着薬を使うことがあります。これはカルシウム製剤で、食後に服用すると消化管の中でカルシウム製剤とリンが結合し、リン酸カルシウムという形に変わります。すると腸管からリンが吸収されずにそのまま便の中に排泄さるため、高リン血症を是正することができるわけです。

■カルシウム製剤の代わりにカルシウムが豊富な乳製品を摂るわけにはいかないのですか。
●残念なことに乳製品や小魚といったカルシウムが豊富な食品はリンも多いんですね。ですからこれらをたくさん摂取すると、逆に高リン血症が進行してしまいます。また、腎不全になるとビタミンDの活性化障害も生じます。ビタミンDは腸管からのカルシウムの吸収を促進するビタミンですから、この活性化障害が生じると、カルシウムがうまく腸管から吸収されずにリンだけが吸収されてしまうのです。健康な人にとっては乳製品の摂取は骨を強くする方策になりますが、腎不全の患者さんにとっては逆になってしまうわけです。


基本的な理解を促す腎臓病教室と実践的な工夫を伝える料理教室

■腎不全の栄養指導で大変なところはどのような部分でしょうか。
●たんぱく質を制限すること自体は比較的容易なんです。これは食べ物の量を減らせばよいわけですから。ところが、食べ物の摂取量を減らすと当然たんぱく質とともに摂取エネルギー量も減ってしまいます。すると栄養状態が悪くなり、望むような治療効果が出なくなってしまいます。それを防ぐには、たんぱく質を控えながらエネルギーはある程度十分に確保しなければならないわけで、これが技法上非常に難しいといえます。それを補うために、低たんぱく食品などのいろいろな治療用特殊食品を駆使しながら食事療法を行っていきます。
また、患者さんに腎不全の食事療法がいかに大事かをきちんと理解してもらうことも大切ですね。そこの理解が不十分ですと、やはり腎不全の場合は、糖尿病など他の疾患の食事療法と比べて制限が厳しいためになかなか守ることが困難です。

■外食の摂り方については、どのような指導をされるのですか。
●まず外食の頻度が問題です。やはり毎日のように外食が入ると食事療法を正確に行うことが極めて困難ですから、毎日の外食は控えていただくことが原則です。ただし月に2〜3回程度の外食であれば、そのとき指示栄養量から多少外れても、他の日がきちんと守れていれば治療効果にさほど大きな影響を与えませんので、まずは頻度について患者さんに説明します。
低たんぱく食事療法を継続しているとストレスも溜まりますから、そのストレスをうまく緩和するためにときには外食を利用することも大切です。そのときはなるべく制限は加えずに、寿司でもステーキでも好きなものを食べてくださいと言います。ただし、食塩を1回に多量に摂るような食事だけは控えてもらいます。例えばラーメンを食べたとき、スープまで全部飲んでしまうと浮腫が生じることがありますから、塩分については注意が必要になります。

■腎臓病教室ではどのようなことを行われているのでしょうか。
出浦教授が行っている腎臓病教室
▲出浦教授が行っている腎臓病教室
●当院の腎臓病教室は、出浦教授が外来診療の延長線上で行っているものです。外来診療の中だけでは病気や治療法、食事療法などについて十分に説明する時間が持てませんから、それを補うことが目的です。他の病院で行われている腎臓病教室では、医師が病気のことを話したり、栄養士が食事の説明をしたりと分担制で行われますが、当院の場合は出浦先生がお一人で4時間程度かけて説明します。栄養科はその準備など補佐的な役割をしています。
栄養科が主催しているものとしては、腎不全の患者さんを対象とした料理教室があります。講師役としてベテランの患者さんを招き、私たち栄養科スタッフはアシスタント役になり、基本的な調理法などについて説明してもらうというものです。食事療法がなかなかうまくいかない方や、食事療法を始めて間もない方が対象で、年に3回程度、7〜8人の少人数で行っています。ベテランの患者さんに講師をお願いしているのは、毎日料理の工夫をしなければならない患者さんに講師役をしてもらったほうが実践的なことが伝えられますし、同じ患者さん同士ですから親近感もわくという理由からそうしています。

積極的に腸内菌叢を整えることが望ましい疾患とは

■腎不全の場合は乳製品を控えたほうがよいとのことですが、逆にはっ酵乳などを積極的に摂取したほうがよい病気はありますか。
●クローン病※などの炎症性腸疾患は、腸内細菌叢のバランスが崩れていることが病勢を悪化させる原因の一つであり、ヨーグルトや乳酸菌飲料を摂取することで腸内細菌叢のバランスが改善しそれが病勢の改善につながるとの報告もあります。
クローン病に対しては、かつては低残渣食によって食物の繊維成分をシビアに制限していた時代があったのですが、最近では食物繊維に対する研究が進んできて、強い狭窄がなければ水溶性食物繊維などは特に大きな問題はないとされています。食物繊維は大腸の腸内細菌によって分解され、最終的には単鎖脂肪酸になるのですが、この単鎖脂肪酸は腸粘膜のエネルギー源になることがわかってきています。その意味でも腸内細菌叢のバランスを整えることは大切だと考えられますね。

※クローン病:消化管に原因不明の炎症が起こる疾患。炎症は口から肛門に至るあらゆる部位に生じうるが、最も生じやすいのは小腸から大腸にかけてである。
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